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MAGICIANとは、材料ゲノム(Materials Genome)、材料情報学(Materials Informatics)、情報化学(Chemo-Informatics)とネットワーク(Networks)を結びつけて(Associate)いかれる人材です。

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2018. 8

春学期の大学の講義、それに続くHSP開発者会議で年の前半は忙しく、更新をサボってしまいました。
来年(2020)3月には今勤めている会社を退職するので、これからはもっと自由に活動できるでしょう。
AIを利用した気液平衡推算(ASOGにiを入れよう)のページを作りました。興味があればのぞいてみてください。 2019.8.18

2015年6月15日の日本経済新聞に“米,「材料ゲノム」の衝撃”と言う記事が載りました。
オーダーメイドの医薬品の開発の際に,患者の遺伝子解析を行って薬を設計する。
同じように材料もゲノム解析して設計してしまおうと言う発想です。

私は1997年頃から,ニューラルネットワークを使った“物性推算と逆設計”を行ってきたので,特に目新しい記事ではありませんでした。

しかし,ここに来て様々な団体が人工知能(AI)と材料設計を結びつけるプラットフォームなどを立ち上げているので,“むやみやたらとAIを恐れるな,でも簡単な話なので無視はするな”と言う話を書いておこうと思います。

ちなみに,友人のKevin (Joback法の物性推算で著名)にゲノム,ゲノムと言っても通じず,スペルを書いたらそれは”ジーノム“と言わなければ通じないと笑われました。

さらに、最近はMI(Materials Informatics:マテリアル・インフォマティクス)とか言うようです。昔は分子設計とか言う言葉が主流でしたが、分子の集合体である物質設計までできるようになったという事でしょう。

さらに「3つのMI」と言う考え方があることをNIMSの出村先生から教わりました。
Materials Informatics
Materials Integration
Materials Infrastructure
それぞれ、物質情報学、複合材料、材料(製造)基盤になるのでしょうか。

その他、データ駆動型材料開発、情報統合型物質・材料開発、機械学習を用いた材料設計、AIによる材料設計など色々あるようです。

どの言葉が一番上位概念かは私にはよくわかりません。

大規模な予算がついて、国家プロジェクトとして動いているものもありますが、そんなに難しい話では無いのでお気軽に自分でもトライしてみましょう。
特にこれから40年間そうしたAIによる材料開発と付き合っていかなくてはならない学生は、「AIアシストを受けて能力強化された人材になるために」と言う観点で、実際に手を動かしてしっかり身につけて欲しいと思います。

自分はAI-ロボットのアトムよりも、サイボーグ009の方が好きな子供でした。
(理由は簡単。自分はアトムにはなれないから。思わずDVDを大人買いしてしまいました。)

電動アシスト自転車は人間の漕ぐ力の半分までアシストしてくれます。
漕ぐ力がゼロならアシストもゼロです。

AIアシストもアシストされる側の能力がものをいいます。
アトムのような化学系AIーロボットができあがったら、人間の化学者はいらなくなります。

そんな時代が来るまでは、いかにAI-アシストに補ってもらいながら地力を高められるかが勝負になります。

大事な点は、情報系の科学者が化学を勉強するのが楽か、化学系の研究者が情報学を勉強するのが楽か、どちらだろうか? ということです。

データサイエンティストがいくら頑張っても、化学の論文・特許は読んでも理解できないでしょうし、データにどのくらい誤差があるものなのかわからないでしょうし、記載間違いを見抜く事はできないでしょう。
そのためにどうしてもビッグデータを必要としてしまいます。

化学で、特に最先端素材に関してはビッグデータなど存在しません。
少量の汚いデータをクレンジングしながらシステムを組んでいかなくてはなりません。
が所詮ビッグデータがないのなら、AIに物事を教える教師の化学レベルが低ければ、出来上がったAIのレベルも引くなります。

化学者が情報学を学んで、AIへの教育の仕方を学び、AIに適した教材を準備する方が結局は、早く、実用的なものが出来上がります。
そうして作ったAIは自分だけを助けてくれるAIアシストになります。

中堅の化学会社がこうした手法に興味を持ってくれたらと思うのですが、どうしたら良いのでしょう?

デジタル人材育成などとも騒いでるが、そうした人材が中堅企業にまでいき渡るのは何時のことでしょうか?

社会人Drとは言わないまでも、3−4日の集中講義で社会人を受け入れる体制を作れる大学があればいいのですが。
もしくは、非常勤講師間で授業の内容を相互利用する体制とか。

まー、研究室も持たない一介の非常勤講師にできる事は限られていますが、まずはコミュニティーMAGICIAN養成講座を立ち上げる事でしょうか。

MAGICIAN(MAterials Genome/Informatics and Chemo-Informatics Associate Networks)
手品師のように化学の問題を解いてしまおう。スポンサー大募集

2021.3.15の段階で、社会人、4社4名が学生に混じって毎週土曜日1.5時間講義を受けています。

学生向けには、MOOCのページ、企業向けにはMOOCに加えMAGICIANのページで実際に手を動かしてやってみましょう。

Pirikaの目指しているマテリアル・ゲノム 、マテリアル・インフォマティクスは巨大軍艦主義のようなものではありません。
何十億もの予算をつけて、ソフトウエアーやハードウエアーを開発しなければ使い物にならないシステムなら、今の素材開発には間に合いません。
建造率が97%でも船は浮かばないのと同じです。

今やらなくてはならないのは、ドローンのような小型の、用途に特化したマイクロ・セルAIを多数構築する事だと思います。
サイズが小さくなればビッグデータはいりません。
その道のプロの化学者が、教え方を学び、教材を用意して、準備ができたところから飛び立てば良いだけです。

イワシの群泳が鯨より大きく見えるように、集合体として大和より大きくなれば良いだけです。

そうなっていけば、自ずと国の研究機関、大学、企業の役割は決まって行くと思います。

華やかな言葉で、予算争奪合戦を繰り返していれば、一時期の流行りで終わるでしょう。

定年退職した自分なんかは”逃げ恥”でも良いのですが、素材産業が崩壊すると若い化学者は大変なことになります。

自分の教え子たちが、「AIに職を奪われた」などとならないように、もう一踏ん張りといったところでしょうか。

この分野の第一人者は、東京大学の船津公人教授です。先生の主催されているCACフォーラムに加入するのも一つの手かもしれません。
日本化学会のケモインフォマティクス部会もいいでしょう。

船津先生の次のような論文はよく読んでおくといいでしょう。

逆解析こそがマテリアルズ・インフォ マティックスに求められている

数年前の材料ゲノム、最近のマテリアルズ・インフォマティクスはケモ・インフォマティクスとは何が違うのでしょうか? 
更に言ってしまえば、数理統計解析と何が違うのでしょうか?

インダストー4、5とか、AIやマテリアルズ・インフォマティクス(MI)と言っていれば予算が付きやすいのは確かでしょうが、数理統計解析との本質的な違いを、こうした流行り言葉を使う研究者に聞いてみたいと思っていました。

船津先生のこの論文にあるように、ケモ・インフォマティクス(Chemoinformatics)が目指すことは、”データ・情報から知識へ 知識から設計へ”と明快です。

MITメディアラボの伊藤穣一さんの「世界の変化のスピードがこれだけ早くなると<地図>はもはや役に立たない。必要なのは<コンパス>です」と言う言葉を思い出します。

データ・情報に裏付けられた知識がコンパスで、コンパスの逆に指している方向が逆解析なのかと思います。
巨大なデータベース(ビッグデータ)を作ることは<地図>を作る事なのでしょうが、DBから知識ベース(Knowledge Base)へ進化させることが急務なのに違いないと思います。

国立情報研究所の新井紀子先生の次の著書も必読でしょう。
AI vs 教科書が読めない子供達
今AI(人工知能)と呼ばれているものには知能はない。
あるのは確率・統計と検索だけである。
コンピュータは計算機であり、計算機は四則演算しかできない(足し算と引き算しかしない?)。
人間の持つ知性が、四則演算で表現できるならAIを作る事も可能かもしれないが、数学にはそこまでの力が無いのは明らかである。
コンピュータにできることは論理的なこと、確率的なこと、統計的なことの3つしかない。

コンピュータが苦手な”教科書を読んで意味を理解する”事もできない人間はコンピュータに仕事を奪われる。
自分も大学で教えていて先生の意見には同意します。

それでは、何故、Siriなどに知性を感じるのでしょうか?
ネット上に溢れる情報を解析すると、統計上一番常識的な解が求まります。
どんな質問をしても常識的に答えてくれます。
しかも、質問者に偏向があっても、その偏向を加味した常識を答えてくれます。

人間であっても、「常識人である」と言うのは、知性のある優れた人物と見なされがちなので、あながちSiriに知性を感じるのは仕方ない事なのかもしれません。
(自分の知らない事を知っている人は偉い。)

しかし、問題は化学系研究者です。自分たちは常識的なポリマーを作りたい訳ではありません。

性能の悪い(安い)ポリマー同士を混ぜたら非常識な性能を発揮して高価に売れる。
そんな事を目指す集団のはずです。
<地図>はありません。
四則演算して、数理統計解析して、<コンパス>を手に入れようとしないなら、新井先生の言うようにAIに仕事を奪われる研究者になってしまうでしょう。

ディープラーニングと言っても、四則演算して、数理統計解析を高速にしているに過ぎません。
知能を持った訳ではありません。
AI-ロボティクスが発達すれば、今まで常識の無かった分野が急速には埋まるでしょう。
でも、この方法では、ノーベル賞をもらった白川先生のような「触媒量を間違って10倍いれたら金属光沢のポリマーが得られ、導電性を示した」的な研究は出てきません。

化学系の知能は99%の失敗と1%の成功に支えられ、AIは今の所、成功例しか学習できないから仕方ないかもしれません。

トーマス・エジソンのように「自分は失敗などした事がない。何万ものうまくいかない事例を発見しただけだ」と突き抜けられれば、天才なのでしょう。

しかし、NMRやIRのチャートを読むなど論理的なもの、モンテカルロ計算や合成ルート探索など確率的なもの、工場の運転などの統計的なものは、徐々にAIと称したコンピュータに置き換わって行くでしょう。

それは単なるオートメーション化と本質変わらないからです。それが進めば、今の職の半分はAIが行うようになるという、新井先生の考え方は正しいと思います。

池谷裕二先生の脳科学の本
脳はなにげに不公平、できない脳ほど自信過剰、脳には妙なクセがある

AI, AIとこれだけ毎日、新聞やネットで騒ぐと、本当に機械が知能を持ったような気になる。
そして、自分なんか軽々と打ち負かされ、職を失うかもしれないと心配になる。

そんな暗鬱な気分になったら池谷先生の本を読むと良いでしょう。
大丈夫。私たちの脳は負けない。
でも負けないためには、脳の特質をよく理解して、脳の強いところとAIの弱い所で勝負するしかない。
でも、それでAIに勝てても、他の人間の研究者に負けていては、やはり職を失うかもしれない。

だから、脳の弱いところをAIの強い所で補ってもらってAIアシストで乗り切っていかなくてはならないのだろうなと思います。

MAGICIAN養成講座には現在(2021.3.15)4社4名の企業研究者が参加しています。 ClubhouseではPirikaサイエンスカフェで水曜日、土曜日におしゃべりしています。

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