Pirika logo
JAVA,HTML5と化学のサイト

Pirika トップ・ページ

Pirikaで化学
 物性化学
 高分子化学
 化学工学
 分子軌道
 情報化学

 その他の化学
 アカデミア
 MOOC講義資料
 プログラミング

ハンセン溶解度パラメータ(HSP):
 HSP基礎
 HSP応用
 ポリマー
 バイオ・化粧品
 環境
 物性推算
 分析
 化粧品の処方設計
 その他
 自分でやってみよう

雑記帳

代理購入?
英語で諦めていませんか?HSPiPの代理購入なら映像工房クエスチョンへ。すぐにお見積りします。
(日本語ドキュメントサービス中)。Mail

 

Ad Space for you

 

 

 

Last Update

25-May-2017

MOOC | 太陽電池と化学工学

講義資料 非常勤講師:山本博志 2012.9.6

化学工学の中で最も重要なのは蒸留であろう。これは蒸気圧と温度との関係の学問だ。

ある化合物を熱をかけると、一部が蒸発し蒸気圧が発生する。それをプロットすると上のようなPressure-Temperature(P-T)線図が得られる。その蒸気圧が大気圧(760mmHg)に等しくなった点が標準沸点だ。化合物によってこのP-T線図は異なるので、2つの化合物を分けたい時には蒸留を用いる。このP-T曲線をチャートから読み取るのでもいいが、多くの場合Antoine式などを使ってFittingを行い、任意の温度での蒸気圧が計算で簡単に出せるようにしておく。このAntoine式へのFittingに関してはこちらのページに詳しく纏めてあるし、P-TのデータからAntoine定数を決定するプログラムもそこにおいてあるので参照して欲しい。

Antoine式とは以下の式の定数、A,B,Cを化合物ごとに求め温度から圧力Pを求める式だ。

log(P[mmHg])=A-B/(T[℃]+C)

この式のおおもとは、Clausius‐Clapeyron式である。

ln(Pvp)=A-B/T    B=ΔHv/RΔZv
ΔHv:蒸発潜熱,R:気体定数,ΔZv:圧縮係数の差(狭い範囲でBは温度によらず一定)

つまり、 Clausius‐Clapeyron式の定数Bは化合物の蒸発潜熱と相関があるはずである。この式とAntoine式を比べてみると、Cの項が無いだけで、同じものであることが判る。すなわち、Antoine定数のBは蒸発潜熱と相関があるはずである。

また、Antoine Cのパラメータは分子間相互作用によって、加えた熱が蒸発に有効に使われない(蒸気圧曲線が寝てきてしまう)ことを補正するパラメータだ。水酸基を分子中に多く持つ化合物などではCの値が小さくなる。非極性の炭化水素などでは、230近辺の値になる。

前ふりはこんな所で、実際に塗る色素増感太陽電池の設計について見ていこう。

とは言っても、ここで扱うのは、ポルフィリン骨格を有機合成した際にできたものを、原料や副生成物から蒸留分離しようという話ではない。(もっとも、それをやりたいなら、YMBを使えば任意の構造の化合物のAntoine定数は求まるので、可能ではあるが。)かといって、ハンセンの溶解度パラメータを使って溶解度の推算をしようというのでもない。

この塗る太陽電池で脚光を浴びているのが、三菱化学が開発したものだ。

三菱化学が効率11.0%の有機薄膜太陽電池を開発

特許を調べてみよう。

JP 2011-166062
ビシクロポルフィリン化合物及び溶媒を含有する光電変換素子半導体層形成用組成物、それを用いて得られる光電変換素子

これが一番わかり易いだろう。何をやっているのか簡単に説明しよう。

色素増感太陽電池にはポルフィリン骨格(下の図の右の化合物)を持ったものを使うのだが、この構造の化合物は溶媒にはほとんど溶解しない。そこで、下の図の左の化合物(これは溶媒に可溶)を作って、塗布して熱をかけることによってMe2C=CH2を飛ばして太陽電池を作ろうというものだ。

カーテンや、ビルの外装、車の外装などに塗って太陽電池にできてしまうので非常におもしろい。

ついでに、もう少し特許を調べた所、広島大学からも出ていた。

JP WO2008/108442
新規ポルフィラジン誘導体およびその中間体、新規ポルフィラジン誘導体及びその中間体の製造方法、並びにその利用

そこでは、チオフェン骨格を導入することによって、高い有機溶媒溶解性を出すとクレームしている。

長鎖のアルコキシ基を導入すると溶解性はあがるが、アルキル基間のファンデルワールス力が強くなるため、分子同士が規則正しく整列した構造を取ることが難しくなり、結晶性薄膜を作りにくくなる。そのため、高い分子配向性(高い結晶性)が要求される電子物性の発現において不利であり、高性能の機能性デバイスを作製する上で障害となるという問題がある。と記載されている。

それではこれを題材に”化学工学的”にポルフィリンやフタロシアニンの溶解を考えてみよう。

ポルフィリンやフタロシアニンは共役化合物と呼ばれる化合物で、2重結合が交互に、しかも2次元の平面上に広がっている。そうしたものの最たるものはグラフェンだろう。

こうした化合物は、平面上にπ電子が広がった構造をとり、πーπスタッキングという力によって分子同士が強く相互作用しており、溶解性は非常に低い。では、どうしたらこのπーπスタッキングという力を定量化できるだろうか? 分子動力学(MD)や分子軌道法を使って様々な研究がなされている。

これを、圧力と温度の関係から見てみよう。文頭で述べたようにこの関係は、Antoine定数で表現される。

YMBを使って、各化合物の絵を描き、物性を計算し、Antoine B とAntoine Cの値を表に入れなさい。

Name Formula Antoine B Antoine C
benzene C6H6
naphthalene C10H8
anthracene C14H10
naphthacene C18H12
cyclohexane C6H12
trans-decahydronaphthalene C10H18
3cHex C14H24
4cHex C18H30

また、三菱化学や広島大学の特許の化合物の物性を見る上で、ピロール、チオフェン類縁化合物の以下のものを同様に計算しなさい。

Name Formula Antoine B Antoine C
dibenzopyrrole C12H9N
indole C8H7N
pyrrole C4H5N
2,5-Dimethyl Pyrrole C6H9N
Skatole C9H9N
2-ethylthiophene C6H8S
2-propylthiophene C7H10S
thiophene C4H4S
2-METHYL BENZOTHIOPHENE C9H8S

3cHex, 4cHexは文献値が無いが、他の化合物についてはDipper801データベースに温度と蒸気圧のテーブルがあり、それを元にAntoine定数を決定した(決定方法はPirikaのこちらのページを参照)。それをYMBでの計算値と比較した所、下のように良好にAntoine定数を推算できている事がわかった。

この値のうち、Antoine Bは蒸発潜熱を示している。つまり分子間力に打ち勝つためのエネルギー差を示している。

それをC6の環の数に対してプロットすると上のような図になる。つまり、同じ炭素の数であっても、芳香族のAntoine Bの値は環状アルカンの値よりも大きくなる。つまり分子間力に打ち勝つには多くの熱エネルギーが必要になる。また容易に類推できるだろうが、共役系が大きくなるとその差はどんどん広がる。これが化学工学的にπーπスタッキングという力を評価する一つの方法だ。

極性を示すAntoine Cの値は芳香族と環状アルカンで差はない。

ここで行いたいのは、三菱化学の化合物(M-Pat)とPhenyl Pyrrolの差を見たい。

M-Pat

PhPyrrol

ところが、下のグラフに示すように、Antoine Bの値は分子が大きくなるに連れ、値が大きくなるので炭素数の違うものは直接的には比べられない。

そこで、Antoine Bを分子量で割ったものについてプロットしてみる。

すると赤四角のフェニルピロールに対して、M-Patの化合物(緑三角)は分子量あたりの蒸発潜熱が小さいことがわかる。すなわち分子間力が小さく溶解しやすい構造であることが定量的にわかる。チオフェンの化合物ではチオフェンにフェニルがついたものが、分子間力が小さく溶解しやすい構造であることがわかる(一番右の紫のX)。この両者がAntoine B/MWの値がほとんど同じなのが面白い。これ以上凝集力を下げると、結晶性薄膜にならなくなるのだろう。

このようなやり方で分子間力を評価できるのは、化学工学を学んだ者だけができる特権なので是非使いこなしてみよう。

ポルフィリン側はp型半導体になる。これだけでは太陽電池にならず、n型半導体と組み合わせる必要がある。三菱化学の特許ではn型半導体にフラーレンを使っている。

これらの修飾されたフラーレンの溶解性のデータは記載されていないが、炭素素材の講義資料でフラーレン単独の溶解性について解説している。参考にして欲しい。

そうして、できたものを積層させ太陽電池を作るのだが、これらの素材は湿気や酸素に弱いのでバリアーフィルムが必要になる。フィルムの酸素の透過性についてはポリマーの講義資料を参照のこと。太陽電池のレベルになると樹脂単独では無理で無機物の蒸着フィルムが使われる。

バックシートにはPETに無機物をコーティングしたものが使われる。

三菱樹脂:テックバリア、PETにシリカをコーティング
凸版印刷:SiOx, ITO
クレハ:セレール
三容真空工業:X-Barrier シリカ

など。

DPP(TBFu)2 :3,6-Bis[5-(2-benzofuranyl)-2-thienyl]-2,5-bis(2-ethylhexyl)pyrrolo[3,4-c]pyrrole-1,4-dione、

Adv. Funct. Mat. 19, 3063 (2009), HSP determination in Adv. Funct. Mat.1, 211 (2011)には、実験から求めた値として、HSP値、[19.3, 4.8, 6.3]が記載されているという。側鎖の設計などは、HSPiPユーザーは自分でやってみよう

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

もしiPadやChrome、Safari (iPad/iPhoneのMobile Safari)、FireFoxなどのHTML5対応のブラウザーをお使いなら、上にキャンバスが現れるだろう。 溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。

どの溶媒がどの領域を溶解しているかを、溶媒をクリックしながら確認して欲しい。

 

もっと化学工学的な太陽電池

シャープ集光型太陽電池セルで世界最高変換効率43.5%を達成(頑張れ、シャープ!!)とある。

太陽電池パネルの発電効率は、パネル温度に依存していて、パネル温度が上昇すると低下することが知られている。それを避けるためにパネルを冷却する必要がある。化学工学的にはあるものの温度を下げるのは熱交換器だろう。特許を調べてみると2種類の方法が見つかった。

1つ目は、JP 2010-278405 A スマートソーラーインターナショナルの「太陽光発電システム及び太陽光発電装置」という特許で、新聞発表では代替フロンを用いていると発表されているが、特許ではエタノールを使っている。モジュールを冷却装置(62)に封入した。装置内は冷却液(64)で満たされている。 図示すように、レンズ(61)により集光され、シリコンセルとガリウムアルミニューム アーセナイドセルの動作時のセル温度が上昇しても、瞬時に冷却液が熱を奪い、導管(6 5)を通じて温度が上がった冷却液が、放熱器(63)に輸送され冷却される。この冷却液が導管により集光部に戻されるため、再びセル・モジュールが冷却される。とある。つまりドブ漬けで冷却するシステムだ。放熱先では水をあたため温水としても利用する。

2つ目は、JPA_2011077379 ジャスト東海の「太陽電池パネルの吸放熱システム」という特許でヒートパイプを利用したものだ。

ヒートパイプとは、密閉容器内に少量の液体(作動液)を真空密封し、内壁に毛細管構造をつけたものだ。ヒートパイプの一部が加熱されると
加熱部で作動液が蒸発(蒸発潜熱の吸収)
低温部に蒸気が移動
蒸気が低温部で凝縮(蒸発潜熱の放出)
凝縮した液が毛細管現象で加熱部に還流
という一連の相変化が連続的に生じ、熱がすばやく移動する。

これはつまり蒸留と同じ原理だ。

液体は温度が沸点に達すると、全てが気化するまでは温度が上がらない。つまり沸点が30℃の液体が発熱体に接していると、発熱体が30℃になると蒸発潜熱を奪いながら蒸発するので発熱体は蒸発潜熱分冷却される。30℃の蒸気が上の方にたどり着いて、そこの部分が30℃以下であれば蒸気は液化して凝集熱を出す。例えばビルの空調に利用する場合には、部屋の温度が30℃に達すると気化して、ビルの屋上が27℃(パイプの端にガーゼを巻いて水で湿らせる。風が吹いていて、水の気化熱が奪われればさらによい)だと液化(放熱)して毛細管現象で室内に戻る。パイプラインを温める、コンピュータのCPUを冷却するなどに使われている。LiBなどのバッテリーも温度が高くなると性能が落ちるので、ヒートパイプは有用だろう。特許ではアルコール、アセトン、HCFC-141b、142bなどが記載されている。

最初の特許の冷媒を評価するのであれば、熱伝導方程式

を解くために、比熱と熱伝導度が必要になるが、これはYMBで計算できる。

次の特許の作動液を評価するのであれば、液体の沸点における蒸発潜熱がわかればいいが、これもYMBで計算できる。

熱伝導度の推算に関してはPirikaのこちらの記事を参照
蒸発潜熱にの推算に関してはPirikaのこちらの記事を参照

それでは代表的な溶媒をYMBで計算し、実際に評価してみよう。

溶媒 示性式 BP(℃)
エタノール CH3CH2OH 78.29
アセトン CH3C(=O)CH3 56.29
HCFC-141b CCl2FCH3 32
HCFC-141a CHCl2CH2F 73
HFE 7000 CH3OC3F7 34.18
HFE 7100 CH3OC4F9 60.05
Pentafluoroethyl  methyl  ether CH3OC2F5 5.51
2-fluoro-1-butene CH2=CFCH2CH3 24.5

 

自由研究

耐熱性高分子もその多くは芳香環を多く持った構造をしている。そうしたポリマーのTg点と繰り返し単位のAntoine定数を比較してみよう。

例えば、カルボン酸が2つベンゼン環に付加した化合物は、付加した位置によってo-,m-,p-体が存在する。そのAntoine定数を比較してみる。
o- 7.7449 2122.6 111.178
m- 7.7387 2653.5 65.949
p- 7.6750 2876.6 40.552

p-体はテレフタル酸と呼ばれ、PETの原料になる。汎用ポリマーでは耐熱性が高く硬めのポリマーになる。o-体はフタル酸と呼ばれ、これは可塑剤の原料だ。粘調な液体となりポリマーを柔らかくするのに使われる。Antoine Bの値からも明らかだろう。

 

MOOCトップページへ戻る。

メールの書き方講座