2026.9.8
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ハンセン溶解度パラメータ (HSP) > 溶解度パラメータの現在・過去・未来 > ポリマーのHSPを決定する
PVClのHildebrand 1次元SP
ポリマーの溶解度をHildebrandの溶解度で見てみる。ポリ塩化ビニルのSP値の文献値は19.1である。確かにその付近の溶媒で溶解するものは9種類と多いが,それ以下でも、以上でも溶かすものが多くある。また溶かすものと溶かさないものの分布がほぼ同じで,これでは、ある溶媒がポリ塩化ビニルを溶かすか溶かさないかは何も言えない。

ポリ塩化ビニル(PVCl)のHSP
Polymer Handbook6)に記載されている例を使って実際に計算する。Polymer HandbookにSolvent and Non Solvents for Polymers というページがあり、様々なポリマーの良溶媒、貧溶媒が一覧表になっている。そこからポリ塩化ビニルの良溶媒、貧溶媒を抜き出してみる。次に、各溶媒のHSPを入手する。ポリマーハンドブックやインターネットで検索しても見つかるが、値が古かったりするのであまり勧められない。HSPiPというオフィシャルのソフトウエアーを購入すれば、最新のHSPのデータベースも含まれるし、データベースに記載の無い化合物については推算値を得ることができる。そしてHSPの値が得られたら、Table 1のようにまとめる。ここでScoreは1が溶解するもの、0が溶解しないものである。その後はソフトウエアーがポリ塩化ビニルのHSPは[18.8, 9.2, 6.3]で相互作用半径は7.3であるとすぐに計算する。
各溶剤のHSP値とポリ塩化ビニルの溶解性
PVClSS.html
こうしたSphereが2つあると仮定して探索する新しいアルゴリズムも付け加えられた。
PVClDS2.html
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
また、溶媒は混合溶媒でも同じように取り扱われる。ひとつひとつが貧溶媒(線で結んである)でも上の例のように、HSPの混合ベクトルが球の内側に来ればその溶媒に溶解する。
次に,ポリ塩化ビニルのHSPが [17.7, 7.9, 5.5]だとした場合に、各溶媒からのHSP距離を求める。

ベクトルの距離なので差の2乗和のルートを取れば良いのだが、HSP距離と言った時にはdDの前に4.0という係数がつく。
HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)2 + (dP1-dP2)2 +(dH1-dH2)2 }0.5
それをプロットして見るといくつかの例外はあるが,HSP距離が8近辺の領域では溶けるか溶けないかが微妙になる。

それ以下だと溶解する。それ以上だと溶解しない。そう考えた時に的中率は約80%になる。ポリマーの分子量,分子量分布の効果,開始剤,添加剤の効果など様々な要因で例外が出てくる。
外れるものは,DMF,DMSO,Dioxane, Toluene, Vinyl Chlorideの5つだ。
HSP距離が短いのに溶けない理由としては,例えば分子のサイズが大きくポリマーの中まで浸透しない,溶解する方向ではあるが溶解するのに非常に長い時間を要する,特に室温でガス上の化合物など,液密度が低いなどが考えられる。
逆にHSP距離が長いのに溶解する溶媒は解釈が難しい。エントロピー効果が大事とも言われている。
DMFやDMSOは様々な系で例外になりやすい。これらは大きな極性項(dP),水素結合項(dH)を持つ。そこでHSP距離を計算すると疎水的なポリマー(dP,dHの値が小さい)からは大きな値になってしまう。しかし実際は水、カルボン酸、低分子のアルコールなどと同様に水素結合によってクラスターを作っている。そのようなクラスターを作った場合には、見かけ上,大きな水素結合項はキャンセルされ、疎水的な化合物も溶解する事ができる。

ジオキサンも本来は親水性のあまり大きくないエーテル化合物であるが、構造的に水と水素結合しやすく100%水に溶解する。そこで親水性、疎水性の両面を持つ化合物の溶解度は単純にHSP距離だけでは理解できないが、一般的な溶媒に対しては非常に良好に溶解性を評価する事が可能である。一旦ポリマーのHSPが決まれば,後はHSP距離が8以下の溶媒を探索すれば、高確率で良溶媒になる。
もう一つ,HSPを使ってポリマーの溶解度を考える事のメリットを紹介する。先ほどのポリ塩化ビニルの良溶媒として,Acetone/Carbon Disulfide混合溶媒が記載されている。この二つの溶媒はどちらも貧溶媒にリストアップされている。貧溶媒の混合物が良溶媒になる例は非常に多く知られている。HSPでは溶媒の混合物はベクトルの足し算を使う。つまりAcetone[15.5, 10.4, 7] ,Carbon Disulfide[20.2, 5.8, 0.6] の50:50混合物のHSPは[(15.5+20.2)/2, (10.4+5.8)/2, (7+0.6)/2] = [17.85, 8.1, 3.8]になる。これと簡易的に求めた、ポリ塩化ビニルのHSP [17.7, 7.9, 5.5]とのHSP距離は1.74となり,非常に良く溶解すると予測され、事実良溶媒であった。このように簡便に混合溶媒を扱える溶解度理論はHSPだけである。下図で確認してみよう。アセトンとCarbon Disulfideは線で結んである。この場合は貧溶媒といってもほとんど溶解球の縁にある溶媒なので理解しやすい。
HSPiPには”Solvent Optimizer”が搭載されており,こうした(混合)溶媒の探索がたちどころにできる。
こうした混合溶媒を取り扱える溶解度理論はHSPだけではないだろうか。
例えばポリマー中に数%水酸基が入っただけで(ポリマー全体としてのHSPはあまり変わらないのだが)溶解度が大きく変わる事はよくある。
またHSPの現バージョンでは未考慮ですが,ドナーーアクセプターの考え方(こちらの記事を参照)が必要な場合,ポリマーの分子量,分子量分布の効果,開始剤,添加剤の効果など様々な要因でいくつかの例外が出てくる。
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