2022.9.12改訂(2010.7.15)
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概要
2020.1.21
HSPiPで呼ぶドナー/アクセプターはプロトンのドナー/アクセプター、つまり、Acid/Baseになる。
HSPiPの中ではδHDδHAと記載されているがδHAcidとδHBaseと説明する。
デンマークの化学者、ブレンステッド(Brønsted)の定義した酸、塩基はプロトンを与えるか(酸)、プロトンを受け取るか(塩基)だ。与えるを英語にするとDonor, 受け取るを英語にするとAcceptorなので、HSPiPの表記も間違いではない。
ルイス(Lewis)の定義では、酸とは電子対を収容しうる空の軌道をもつ原子を含むもの,塩基とは非共有電子対 (共有結合に使われていない電子対) をもつものだ。
山本の勝手な解釈では、水素ーフッ素までの原子で話をするときには、Brønstedでも良いが、Na以降、特にリン、硫黄、金属が絡んでくるとLewisにしないといけない。
山本博志がHSP50周年記念で新たなパラメータ(Gutmann’s Donor number(DN) acceptor number (AN))の予測式を作成し、混乱しないようにElectron Donor/Electron Acceptorという呼び方を使っている。
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)の問題点として、酸性/塩基性顔料などの分散性がHSPでは合わないといった指摘がある。
HSPiPのV.3.1.xからは水素結合項をAcid/Baseに分割した値もサポートされたが、HSP距離の考え方、ハンセンの溶解球の考え方は拡張できずにいる。1つの方法として主成分分析、PCAを使う方法が持ち上がっている。
2025.5.17 次世代のHSP2の利用者向けにブレンステッド、ルイスの酸塩基に関しての説明資料を作った。HSPiPユーザー向けではないが、参考になるだろう。
無機物の分散に酸性、塩基性は影響するだろうか?
酸性顔料、塩基性顔料の分散
HSP距離の33式詳説
溶解度パラメータにドナー数、アクセプター数を導入。僕が初めてでは無かった。残念!
電荷平衡法とドナー数とアクセプター数
ソルバトクロミズムでやっとドナー数、アクセプター数がわかった!
以降は2010年の古い記述。
内容
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)の問題点として、酸性/塩基性顔料などの分散性がHSPでは合わないといった指摘がある。
そこで、水素結合項をAcid/Baseに分割する、試験的な試みが開始された。多くの時間が費やされたが、HSPの距離の取り方、類似度の計算方法など問題が多く残り、一部は宿題になっている。
基本式はトータルの蒸発潜熱と矛盾しないように、
dH2 =dHacid2 +dHbase2 式(1)
を満足する、dHacid:酸性項、dHbase:塩基性項を計算する。
その際のAcid/Baseーの比率については、UCL(University College London)のAbraham教授のAcid/Base値を利用し、
dHAcid:dHBase=Abraham-a:Abraham-b 式(2)
比率が同じになるように設定する。
古いやり方では、このように式(1)が成立した。
ところが、dHとbraham-a、Abraham-bの3つを推算して、分割比率を決めるのでは誤差が大きくなる。
そこで、dHacidとdHbasicを直接推算するように変更した。そこで現在では式(1)は成立しない。
ここで、Abraham教授のパラメータを利用している以上、dHacid:酸性項、dHbase:塩基性項にしかならない。
式(1)と式(2)を満足するようにdHacid,dHbaseを決定する機能をY−MBに搭載した。

HSPiPのV.3.1.Xから利用できる。

(ごく初期にはHSP距離の計算式はとても変なものが搭載されていた。
2025年現在ではBeerbowerタイプの式が搭載されている。)
ただし、Acid/Base相互作用が溶解度にどう関わっているか?
それについては、SphereプログラムでSplit dHファンクションを導入して様々に検討を開始し始めたところで、まだ結論には至っていない。(結局Beerbowerタイプの式になった)
例えば、パッキン用のフッ素ゴムの膨潤性のデータにドナー性とアクセプター性を導入し、SOMを検討した所、強く膨潤する溶媒は2群に分かれた。しかし、2群のdHdo, dHacを比べても特徴的な差は見られなかった。
実際にSOMを計算してみよう。まずReadボタンを押してデータを読み込み、Startボタンを押す。動きが少なくなってきたらStopする。後は画面に表示するitemを切り替えてみよう。
SOMは乱数を使っているため、やるたびに答えが異なる。一番膨潤性が高いランク3がどのような分布になっているかに着目しよう。

4次元空間の距離のとり方は、未だに未解決だ。(最近は主成分分析, PCAを行って次元縮退させようかと思っている。)
いままでの、ハンセンの溶解球は4次元では使えない。
SOM法、PCA法で様々に検討し、新しい評価法を創りだそうと検討が進められている。
ヒスタミン受容体拮抗剤、アセトアミノフェンの定量的溶解性、化合物の皮膚浸透速度などではこのdHdo, dHacが重要な役割を果たしている事が明らかになってきた。
2025.5.17
簡易ビュアーを作ってみた。マゼンタ色の大きな球がハンセンの溶解球になる。軸に何をアサインするか、dHの分割に何を使うかを指定する。
dD, A, Bの軸で、水素結合にdHAcid, dHbaseを指定してみよう。溶媒中で純粋な酸になるものはとても限られる。アルコールやカルボン酸などの両性化合物がかろうじてdHAcidを持つが、溶解球も含めほとんどの溶媒が、dD-dHBase平面上に存在している。
この限界のため、dHをdHAcid, dHbaseに分割する方法はほとんど使われていない。
次世代のHSP2のルイスの酸塩基を使う方が良い結果になるようである。
湿潤熱法による顔料の 溶液吸着挙動の研究
様々な顔料と溶媒と混合し、そのときの湿潤熱と吸着熱を測定した 関西ペイントの論文がある。
著者らはその湿潤熱、吸着熱をハンセンの溶解度パラメータと比較し、水素結合項と高い相関を見いだしている。
そこで、今回開発したdHdo, dHacとこの湿潤熱、吸着熱がどのような関係にあるのかを検討した。
溶媒のデータを付記する。実際に最新のHSPiPでδHacid, δHbaseの値を求めよう。(HSPiPではδHD, δHAと記載されている)
テーブル
dD | dP | dH | Vol | dHdo | dHac | |
diethyl ether | 15.49 | 2.9 | 4.6 | 104.7 | 0 | 4.6 |
cyclohexane | 16.8 | 0 | 0.2 | 108.9 | 0 | 0.2 |
xylene | 17.8 | 1 | 3.1 | 121.1 | 0 | 3.1 |
toluene | 18 | 1.4 | 2 | 106.6 | 0 | 2 |
benzene | 18.4 | 0 | 2 | 89.5 | 0.06 | 1.99 |
1,4-dioxane | 17.5 | 1.8 | 9 | 85.7 | 0.12 | 8.99 |
aniline | 20.1 | 5.8 | 11.2 | 91.6 | 5.15 | 9.95 |
butanol | 16 | 5.7 | 15.8 | 92 | 9.63 | 12.52 |
propyl alcohol | 16 | 6.8 | 17.4 | 75.1 | 10.3 | 14 |
ethyl alcohol | 15.8 | 8.8 | 19.4 | 58.6 | 11.6 | 15.5 |
methyl alcohol | 14.7 | 12.3 | 22.3 | 40.6 | 13.4 | 17.8 |
propylene glycol | 16.8 | 10.4 | 21.3 | 73.7 | 12.2 | 17.5 |
ethylene glycol | 17 | 11 | 26 | 55.9 | 16.2 | 20.3 |
Water | 15.5 | 16 | 42.3 | 18 | 38.9 | 16.6 |
酸化チタンに対する湿潤熱、吸着熱とdHの関係

著者らは『溶媒のdHが大きくなるとその電子受容性は大きくなり、酸性挙動を示す。逆にdHが小さくなると電子供与性が大きく、塩基性挙動を示す。酸化チタンはdH10付近の酸性溶媒が湿潤しやすく吸着しやすい。
そこで酸化チタンは酸性の溶媒と強く相互作用する塩基性顔料である』と結論づけている。
HSP的にはカルボン酸もアミンも大きなdHを持つ。それに対してアルコールのような溶媒も大きなdHを持つが、それをドナー/アクセプターに分解するとdHドナーもdHアクセプターもどちらも大きな値になる。
従って、dHドナー、dHアクセプターが10以上の時には、どちらの相互作用で吸着熱が出ているのかが判然としない。(図中のdH donorはdHacidのことだ。新しく計算したもので作図してみよう。)
キナクリドンAは逆に酸性顔料であるとされている。


図中のdH AcceptorはdHbaseのことだ。新しく計算したもので作図してみよう。

dHacid、dHbaseが10以下ではアルコール化合物は存在しない。
従ってこの領域に吸着熱を持つのなら、顔料はdHacid性を持っていてdHbase性の溶媒を吸着していると理解することができる。
吸着熱と比べ、湿潤熱の方は解釈が難しそうである。
次の例ではdHの塩基性が効いているようだ。
Solubility parameter and oral absorption
European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 48 (1999) 259ー263
Luigi G. Martini*, Paul Avontuur, Ashley George1, Richard J. Willson, Patrick J. Crowley

経口吸収はdHbaseと強い相関があるようだ。
これは胃酸との相互作用だろうか?
dH項のAcid/Baseへの分解は、ちらほら役に立ちそうな結果も出始めている。
しかし、我々自身がこのdHAcid, dHBaseを完全に理解している訳ではないが、HSPiPのver. 3.1.Xに搭載された。
ユーザーと協働で理論の構築を進めている。4D HSPの取り扱いにはHSPiPだけでは不十分で、YMBを使いながら別途検討を続けている。
Donor/Acceptor表示のチェックを入れて見ると下のようになる。
4D HSPにフィットする混合溶媒探索も、HSPiP ver.4 には搭載された。実際に試してみると面白いだろう。
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