HSPを使った環境に優しい溶媒選択

2022.11.24改訂(2010.7.28)

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概要

グリーンソルベントを考えるときに、まず重要なのは代替溶媒がターゲットを溶解することだろう。
溶解性をそろえた上で、引火点やその他の環境関連の物性値が妥当であるか評価しなければならない。

こうした物性値はHSPiPを使えば簡単に入手できる。

内容

グリーンソルベントと言っても、溶媒である以上は、その溶解性は一番重要な物性である。
溶解性を考える上でハンセンの溶解度パラメータ(HSP)は、まず第一に重要な指標である。

環境に優しい溶媒(グリーン・ソルベント)選択
引火性でない。(危険物)
VOC規制(揮発性有機化合物規制)
HAPs規制(有害大気汚染物質規制)   米国
化審法(化学物質の審査および製造等の規制に関する法律)  日本
Reach ( registration, evaluation and authorization of chemicals) EU
TSCA (Toxic Substance Control Act) 米国
ODP (Ozone Depression Potential, Montreal protocol)
GWP (Global warming Potential, Kyoto protocol )

こうした規制に該当しない溶媒の選択(混合溶媒の設計)

混合溶媒のHSP

[dDm, dPm, dHm]=[(a*dD1+b*dD2), (a*dP1+b*dP2),(a*dH1+b*dH2)]/(a+b)

混合比率は体積分率で計算します。

HSPiPの例題

  1. 顔料、染料のバインダーポリマーのHSPを求める。
    バインダーを溶かす溶媒、溶かさない溶媒から球の中心と半径を決定
    [18.6, 10.1, 7.8] R0=8.5
  2. 溶媒とのHansenの距離(Ra)を求め、それがR0以下であれば、
    (0に近いほど良く溶解する)候補となりうる溶媒。
    N-メチル-2-ピロリドン [18.0, 12.3, 7.2]→高価、蒸発しにくい、健康上問題、安全上問題
  3. 混合溶媒でポリマーと同等のHSPを持つ組み合わせを探索する。
    (混合物のHSPは分子体積を使って相加平均で求める。)
    Optimizerを使うとPropylene carbonate: Dipropylene Glycol: Aromatic Hydrocarbon=38:33:29で混合溶媒HSP [18.3, 10.2, 7.7]がたちどころに求まる。

という例題が記載されている。これを他の例題を用いて実際に見てみる。

Ex.アセトニトリル溶媒代替探索

リーマン・ショックの後、アセトニトリル溶媒が市場から消えた事がある。
(アセトニトリルはアクリロニトリル[ポリマーの原料]の副生成物で、ポリマーのニーズが無くなったためアセトニトリルも無くなった。)

この溶媒は、HPLC用の溶媒、有機合成用の溶媒として無くてはならないので、非常に困った。
液クロ用の溶媒は無理にしても、有機合成用の溶媒なら探索できるかもしれない。

有機合成用の溶媒探索に関してはこちらを参照してください
合成用の溶媒では、反応させる基質を溶解するのがまず第一に必要だ。
そこで、アセトニトリルと同じ溶解度パラメータを持つ溶媒をHSPiPの例題と同じように探索する。

  1. Acetonitrile HSP[15.3, 18, 6.1] dPが非常に大きい。dDは小さい。
  2. 代表的な81溶媒から単独溶媒を探索する。
10   Acetonitrile15.3186.1 Ra
115   gamma-Butyrolactone (GBL)1816.67.45.73
535   1-Nitropropane16.612.35.56.29
608   Sulfolane (Tetramethylene Sulfone)18189.96.60
363   Ethylene Carbonate1821.75.16.62
303   Dimethyl Sulfoxide (DMSO)18.416.410.27.60
7   Acetone15.510.477.66

HSP距離

HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)^2 + (dP1-dP2)^2 +(dH1-dH2)^2 }^0.5

(dDの前には4と言う係数が入ることに注意しましょう。)

アセトニトリルの特徴はハンセンの溶解度パラメータのうち、分極項(dP)が非常に大きいことである。

そして分散項(dD)も小さめである。

dPが大きい単品の溶媒はdDが大きい傾向があり、最もアセトニトリルに近い物でも、γーブチロラクトンのHSP距離(Ra)=5.7となってしまい、良好な代替溶媒が無い。

3. 代表的溶媒81種から混合溶媒探索

そこで、溶媒81種を使い、2元系、81*80の組み合わせで、混合比率10%刻みでHSP距離がアセトニトリルから一番短くなる組み合わせを自動探索した。
結果は下の表に示すように、エチレンカーボネートをベースにする混合溶媒であった。
HTML5バージョンはこちらからご利用いただけます。

(画像はJAVA版)

AA ratioBdDmdPmdHmRa
7:Acetone0.5363:Ethylene Carbonate16.7516.056.053.49
363:Ethylene Carbonate0.7963:t-Butyl Acetate17.117.055.433.78
363:Ethylene Carbonate0.6369:Butyl Glycol Acetate16.9216.025.783.81
363:Ethylene Carbonate0.7666:Texanol17.1317.026.513.81
363:Ethylene Carbonate0.7440:Iso-Propyl Acetate17.0716.546.033.83

では、こうした混合溶媒の候補のうち、どれから試すか? 優先順位の付け方を考えてみる。

日本における危険物の分類

日本においては危険物は大まかに引火点によって分類される。
(引火点はHSPiPを使うと推算することができます。詳しい記事はこちらを参照してください。)
そこで今回探索された混合溶媒のうち両方が第3石油類に入る、エチレンカーボネートとBGAの60:40の混合溶媒が第一候補となる。

引火点を意識して混合溶媒を設計したため、沸点が非常に高い混合溶媒になってしまった。

合成溶媒に用いた場合に分離精製に支障があるかもしれないが、混合溶媒の設計方法の紹介という事で理解していただきたい。
引火点以外の環境影響に関する物性値はVOCの記事で検証を行ったのでそちらを参照いただきたい。

この内容は、分離技術会の、”物性定数とその最近の動向”という講習会(2009.3)で発表したものです。
Rhodiasolvと言うグリーン・ソルベントに関しては、こちらを参照してください。

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