膜のキャスト溶媒の選択法

2022.11.24改訂(2010.11.19)

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概要

ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を使った膜のキャスト溶媒の選択法:
パーベーパーレーション膜、ウルトラ・フィルトレーション膜のキャスト溶媒をハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を用いて検討する。
水の通り道をグラフトポリマーで設計するなどというときは、ポリマーはミクロには相分離構造をとっていたほうがいいかもしれない。

そのような場合の溶媒の設計方法を解説する。

内容

面白い論文を見つけた。

Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropene) (PVDF-HFP) membranes for ethyl acetate removal from water
Xiuzhi Tian ∗, Xue Jiang
School of Textiles & Clothing, Key Laboratory of Eco-Textiles, Ministry of Education, Jiangnan University, Wuxi 214122, China Journal of Hazardous Materials 153 (2008) 128–135

Journal of Hazardous Materials 153 (2008) 128–135

SEM pictures of PVDF-HFP membranes’ cross-sections prepared under different conditions.
DMAc, vacuum, 60 °C.

PVDF-HFPのコポリマーをアセトンやDMAcに溶解して製膜して、水から酢酸エチルを取り除く、パーベーパレーション膜を作るというものだ。

論文中ではPVDF-HFPのコポリマーのハンセンの溶解度パラメータの値として[17.2, 12.5, 8.2]を使っているが、参照している論文はコポリマーではなくPVdFそのもので、しかも値は [17.2, 12.5, 9.2]なので間違って引用している。

またHSP距離として
δiP = [(δpi − δpP)2 + (δdi − δdP)2 + (δhi − δhP)2 ]1/2  (7)
を使っているがHSP距離の場合はdDの前には4がつくので計算間違いだ。

問題は多い論文だが、取り敢えず、HSPを使った製膜用溶媒の選択法について記しておこうと思う。

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。

PVdF系バインダー用樹脂の所でも書いたが、このポリマーは2つの溶解性を持つ。

緑の大きな球[19.1, 15.6, 10.2] 半径 8.45
緑の小さな球[17.5, 6.3, 9.0] 半径 4.63

HcodeNamedDdPdHDistSP-ADis/RADistSP-BDist/RB
417hexane14.90020.442.4212.152.63
181cyclohexane16.800.219.092.2610.912.36
456methyl alcohol14.712.322.315.321.8115.633.38
325ethyl alcohol15.88.819.413.211.5611.222.42
569propyl alcohol166.817.412.951.538.931.93
92butanol165.715.812.951.537.461.61
182cyclohexanol17.44.113.512.441.475.011.08
46aniline20.15.811.210.051.195.671.22
         
         
         
11acetophenone18.81048.380.996.741.46
363ethylene carbonate1821.75.18.250.9815.923.44
584Propylene Carbonate20184.16.800.8013.632.94
115gamma-butyrolactone1816.67.43.700.4410.472.26
617tetrahydrofuran16.85.75.711.811.403.630.79
285N,N’-dimethylacetamide16.811.510.26.160.735.521.19
521N-methyl-2-pyrrolidone1812.37.24.970.596.341.37
303dimethyl sulfoxide18.416.410.21.610.1910.332.23
624Tetramethylurea16.78.2118.861.053.190.69
416hexamethyl phosphoramide18.511.68.74.440.535.671.23
659triethyl phosphate16.711.49.26.460.765.351.16
671trimethyl phosphate15.710.510.28.501.015.661.22
297N,N’-dimethylformamide17.413.711.34.050.487.751.67
183cyclohexanone17.88.45.19.201.094.470.97

いくつかの溶媒をリストアップして、溶媒とポリマーの距離を計算した。
この距離が緑の球の半径以下であれば溶解すると予測できる。
つまり距離を半径で割った値が1以下なら溶解するはずだ。

PVdFの両方の部分を溶解する溶媒はこの中には無い。
多分、 N,N’-Dimethylacetamide (DMAc) が最もバランスがいいので、論文ではこれを使っているのでは無いだろうか?

2つめの例題

MIT OpenCourseWare
2.500 Desalination and Water Purification
Amphiphilic Graft Copolymers for Nanofiltration Membranes with Tunable Pore Size

MIT(マサチューセッツ工科大学)の資料から取って来た。

このグラフトポリマーのキャスト溶媒はどんなものがいいだろうか?

まず、PEGの溶解度パラメータを決めなくてはならないので、ポリマーハンドブックから溶解性のデータをとってきた。

HcodeNamedDdPdHVolScore
417hexane14.900131.40
7acetone15.510.4773.80
481methyl ethyl ketone1695.190.20
255diethyl ether15.492.94.6104.70
522methyl tert-butyl ether14.84.35119.80
3061,4-dioxane17.51.8985.70
52benzene18.40289.51
637toluene181.42106.61
456methyl alcohol14.712.322.340.61
10acetonitrile15.3186.152.91
524dichloromethane177.37.164.41
156chloroform17.83.15.780.51
122carbon tetrachloride17.800.697.11
183cyclohexanone17.88.45.1104.21
202diethylene glycol dimethyl ether15.76.16.5142.91
328ethyl acetate15.85.37.298.61
617tetrahydrofuran16.85.75.781.91
285N,N’-dimethylacetamide16.811.510.2931
297N,N’-dimethylformamide17.413.711.377.41
303dimethyl sulfoxide18.416.410.271.31
598pyridine198.85.980.91
1016ethylacetoacetate16.57.38.3127.31

Sphereプログラムを使って計算すると、 [20.0, 11.2, 2.3] 半径 12.2 となった。

N-methylacetamideだけが、PVdFの良溶媒で、PEGの貧溶媒という結果になった。
従ってミクロ相分離構造を作りたいならこの溶媒を使うのが良いと思われる。

実際にハンセン空間で見てみよう。

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。

緑色の大きな球はPEGのSphereを示している。水色の球はPVdFを示している。どの溶媒が両方を溶かし、どの溶媒がPVdFだけを溶かすか確認してみて頂きたい。

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