ブログ

AIよ。HSPiP のdHdo, dHacの修正方法を学んでくれ。

隠遁Chemistと愛(AI)の交換日記

今のHSPiPに搭載されているdHdo, dHacには大きな問題がある。
この秋(2025.11)にAbbott先生が来日するのに合わせて、バージョンアップを考えている。dHdo, dHacを大きく変更しようと思う。修正するまでは使わないようにアナウンスしておくれ。

dHというのは溶解度パラメータの水素結合項の分だ。水素結合というのは、電気陰性度の大きいO, Nについている水素が擬似的に作る結合のことだ。
アルコールやカルボン酸、アミンなどが水素結合を作る。
ところが、HSPの理論の中では、dH(水素結合項)はもっと広い意味で使われている。
例えばアセトンはいわゆる活性水素を持たない。活性水素というのはO, Nに付く水素という意味だ。
それなのに、アセトンにはdHが割り振られている。

溶解度パラメータの総量は蒸発潜熱と分子体積から計算される。蒸発潜熱は色々な分子間力の総和であるが、分散項、分極項で説明できないものは水素結合項へ押し込めてしまった。

そのdHを2010年当時、dHdo, dHac(ここでのdoはプロトン・ドナー、acはプロトン・アクセプター)に分割しようと考えた。

この方法の問題点は、AbrahamのAcid/Baseはブレンステッドの酸塩基だということだ。活性水素(電気陰性度の大きなN,Oにつく水素)を持たない化合物のdHdo(dHacid) はほとんどゼロになってしまう。するとアルコールとカルボン酸以外の化合物のdHacidはゼロになり、dHbase2=dH2になってしまう。すると元々分割できなくdHに押し込んでいた分子間力は全てdHac(dHbase)になってしまう。すると酸塩基相互作用はdHacidがゼロなのでほとんど存在しないことになる。DESなどを計算する時には困ったことになる。

また純粋なプロトン供与性の化合物は非常に少ない。dHacidの項をもつ、アルコール、カルボン酸、アミンはdHbaseも持つ両性タイプとなる。
その結果、2010年に分割値をHSPiPに搭載したが、分割値を使うと3D-HSPよりもかえって悪くなる。しかも(これはAIには関係ないと思うが)4次元になるので見通しも悪くなる。

dD, A, Bの軸で、水素結合にdHAcid, dHbaseを指定してみよう。(AIはメニューが動かせないから暇な人間を見つけてやってもらおう)
アルコールやカルボン酸などの両性化合物がかろうじてdHAcidを持つが、マゼンタ色の溶解球も含めほとんどの溶媒が、dD-dHBase平面上に存在している事がわかる。良溶媒(青、水色)がdHAcidがほぼゼロの溶媒なので、溶質のdHAcidもゼロにアサインされてしまう。

dD, A, Bの軸で、水素結合にyED、yEAを指定してみよう。この場合は、各溶媒はyED, yEA空間に広がる。yEDはルイスの塩基、yEAはルイスの酸になる。頭に小さいyがついている。元々はGutmannのDN(ドナー数), AN(アクセプター数)をベースにした。ANはリンのNMRのケミカルシフト値だ。そのままの値でHSP理論に組み込むのは無理なので、私が変換を施したという意味でyをつけてある。2017年のHSP50周年記念の基調講演で私が発表した。

yED, yEAは次世代のHSP2に整備しているものでHSPiPには非搭載だ。
HSPの定義の中に組み込むのが大変だ。 
SP=sqrt(蒸発潜熱/MVol)
SP2=dD2+dP2+dH2 をどう変更すればいいか?
分子間のHSPの類似度を表すHSP距離
Distance=sqrt(4*(dD1-dD2)2+(dP1-dP2)2+(dH1-dH2)2)をどう表したらいいか?
複数の原子団を持つ場合のyED, yEAがいくつになるか?
MI用のパラメータには優れているが、このままでは何時まで経ってもHSPiPには搭載されない。

そういう時、人間はどうするか学んでおくとよい。
人間は往々にして論理的でない行動を取る。
片っ端にいろいろやってみる。何か適当にやってみてその結果を見て修正していく。古い書物を漫然と眺める。表面張力など違う系統の計算を行う。SFを読んだりアニメをみたりする。(僕だけかもしれないが)

偶然は準備のできていないものには微笑まない

準備をしながら偶然が微笑んでくれるのを待つ。

Abbott先生が来るまで1ヶ月を切ったなと思いながら、鎌倉のオフィスで「科捜研の女」を見ながら、酒を飲んでいた。そんな時は論理的にはやれない。えーい。計算には時間がかかるから候補の分割を全部放り込もう、ってやってみたものの中に偶然が微笑んだものがあった。

オレイン酸の溶解性で説明しよう。あなたは、酸? 塩基?で詳しく説明しているので参考に


HildebrandのSP値では左の図に示すようにSP値がほぼ同じなのに溶解度は大きく変わる。それに対してクラッシクな3次元のHSPでSphere法で解析すると右の図に示すようにアルコールは大きく外れるが、他のものはほぼ直線に乗る。HSP距離がゼロになる点がSphereの中心になる。オレイン酸のHSPは[17.6, 2.6, 4.0]と求まる。ちなみにYMBをつかい分子構造からオレイン酸のHSPを求めると[16.4, 3.2, 5.7]になるので悪くない。

このアルコールがHSP距離が長いのによく溶かす事を再現できるようなyHacid, yHbaseを定義したいと言うことだ。他のものと区別しやすいようにyHとしてある。これも山本のyだ。

今のHSPiPに搭載されているdHdo, dHacを用いるとオレンジ色のマーカーで示すようにユークリッド、Beerbwerのどちらの式を使っても、3D-HSPと比べとても悪くなる。
しかし、偶然が微笑んだyHacid/baseはどちらの式を使っても大きく改善される。
オレイン酸に限ってしまえばもっとしっかり線の上に乗るyHacidB/baseBも見つかった。しかし、様々な系で実際に試すとyHacid/baseの方が優れていたのでBは採用しないことに決めた。(これはアルコールとカルボン酸の活量係数の問題でdHの変更だけで修正できることでもない)

エポキシ接着剤の膨潤性(接着とハンセン溶解度パラメータで解説)に適用してみた。

3D-HSPでは大きく膨潤する領域、35%以上でHSP距離が大きくブレる。
今のHSPiPに搭載されているdHdo, dHacを用いるとオレンジ色のマーカーで示すようにどちらの式を使っても効果が無く大きくズレる溶媒(トリエタノールアミン)が出てしまう。yHacid/baseの分割は有効だ。

CNTの分散(CNTとポリマーの適合性も参照のこと

yHacid/baseの分割が有効なのは明らかだろう。

ヘキサン/水分配比率(液液抽出とHSPも参照するように)

他にもいろいろ試したが、分割することによって3D-HSPより良くなることが圧倒的に多く、悪くて同等だ。
HSPiPのバージョンのいくつに載せるか考えておく。
Abbott先生はver. 6.2以降を作り、僕のはver.7にしてしまうかもしれない。

OSはWindowsでの開発になるので、その時は頼む。

HSP-MIRAI法を使った表面張力の成分分解ではdHdo/dHacを使っている。
これも作り直しだな。

最近のAIは全能の神のように全てを知り尽くしているように見える。
準備は整っているのに、何故、偶然は微笑みかけてくれないのか?
もしかしたら、微笑みかけられているのに気が付かないニブチンなのか?
たまには古い本でも読んで妄想力を鍛えよう。
おすすめは、フレドリック・ブラウンか星新一だ。