パルスNMRの緩和とハンセンの溶解度パラメータ(HSP)

MagelelaのパルスNMRのRelaxation Noとハンセンの溶解度パラメータ(HSP)に関する論文を頂いた。
“Fast NMR relaxation, powder wettability and Hansen Solubility Parameter analyses applied to particle dispersibility”というPowder Technology 377 (2021) 545–552の論文だ。

一緒にHSPをやっているAbbott教授とも、David氏の論文には注目している。

以前、Lumisizerを利用した解析の際には、Electron Donor(ED)やElectron Acceptor(EA)が大事だというブログを書いた。
通常の(第2周期フッ素までの)酸、塩基ならδHDoやδHAcで議論していても良い。
しかし、遷移金属のようにd電子まで関与する場合にはEDやEAも大事になってくる。

そこで、3次元までしか表示できないハンセン空間には表示できないので、主成分分析(PCA)を行なって7次元を3次元に、次元縮退するという話を書いた。

その時の、Lumisizerを使ったデータのMSサイエンティフィックのページは、問題があるとかで消去されていて、現在は見ることが出来ない。

そこで、今回は、パルスNMRを使った解析とHSPを結びつけているパブリックな論文をネタにして、遷移金属のようなd電子まで関与する場合の取り扱いを書いておこう。

HSPの水素結合力というのは、電気陰性度の大きいOHやNHについた水素が、非共有電子対(ローン・ペア)と結合を作った時のエネルギーから算出される。そのエネルギーをさらに二つに分けようと考えた。ブレンステッド・ローリーの酸と塩基の定義はプロトンを与えるものを酸、プロトンを受け取るもの塩基という一番シンプルなものだ。HSPiPの中ではAbrahamのAcid, Baseを元にしていたので、δHDo, δHAcとドナー/アクセプターと表記しているが、実際には酸と塩基、プロトン・ドナーとプロトン・アクセプターを表している。

そこで、混乱しないように、ルイスの定義の酸と塩基は、Electron Donor(ED:いわゆる塩基)とElectron Acceptor(EA:いわゆる酸)と私は定義している。

このEA,EDを推算するルーチンはHSPiPのver.5.4にもまだ搭載されていない。
しかし機械学習(ML)や材料情報学(MI)ではとても有用なパラメータになっている。
HSPiPユーザーにどのように提供していくはこれからゆっくり考えよう。

NMRのRelaxation Noは何を意味しているのだろうか?

この論文にある溶媒とRelaxation Noはこのようになっている。我こそと思うMI研究者は挑戦してみよう。

分子のSmiles構造式がわかっているので、HSPiPユーザーならY-MBを使えば簡単にHSPは計算することができるだろう。

最初この論文を読んだ時には、これは溶媒の誘電率に依存していると感じた。
プロットしてみると、大まかには正しい。
でもRnoが大きいところで大きく乖離する。

結果的にはLumisizerと同じように、Relaxation Noと最もよく相関するのはElectron Donorであった。


δHとの相関は次のようになる。これではQSARには向かない。


溶媒の構造があればY-MBで計算できる。その(新しい)Y-MBの出力のEDからRelaxation Noが決まる。
つまり、片っ端から溶媒を計算して、最適なRelaxation Noを持つ溶媒を特許で押さえれば良いことになる。

ただ、問題もある。HSPの理論では混合溶媒は体積分率で計算できる。しかし、今回のようなナノ粒子表面への吸着のようなことに関して、混合溶媒の効果がどうなるかはわかっていない。

アカデミック・ユーザーや一部のコア・ユーザーに新しいY-MBを使ってもらうのが早道であろうか。

この無機物はシリカ・コートのZnOだ。紫外線吸収などの化粧品に使うのかもしれない。その分野はまだ勉強中で詳しくはない。

もし、触媒やセラミック、ガラスなどを扱うのであれば、このようなデータが得られたら色々なことができる。
インクジェット用のインク設計でも説明したが、無機物、ポリマー、溶媒の3系で扱う場合のHSPのマッチングの問題だ。

例えば、そうしたスラリーインクの無機物表面には、無機物を粉砕した時に高エネルギー表面ができる。その時に、ED性の高い溶媒(緑の球)はその高エネルギー表面に吸着される。しかし、EDが低い溶媒(オレンジの球)は吸着されないので、粒子同士が高エネルギー表面同志をくっつけて、嵩高い構造を作る。

そして、そこにポリマーを入れることを考える。

アミド系の溶媒がよく吸着されるなら、ポリビニルピロリドン(PVP)を使えばよくマッチングする。
アルコール系ぐらいであれば、ポリエチレンカーボネート(PEC)あたりだろう。

このような3元系から溶媒を飛ばすプレ・キュアを行う。

溶媒が飛んだ無機物表面にポリマーの官能基がうまく配位できると、最終的に均質に溶解した無機物ができる。
プレ・キュアの段階でポリマーと無機物がうまくマッチしなければ、無機物の凝縮が起こり、その部分はうまく溶解できない。


こうした、見てきたような「うそ」がパルスNMRを使うともっとハッキリするのかなと思う。

研究の進展が楽しみだ。



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