ポリビニルピロリドンとハンセン溶解度パラメータ(HSP)

2022.11.24改訂(2011.2.3)

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次世代のHSP2を使って解析し直した。2025.5.2
クラッシクなHSPで表現できない酸性ポリマー
HSPiP利用者向けの記事ではないが参考になるかもしれない。

概要

ビニルピロリドン(N-Vinyl-2-pyrrolidone) は親水性のモノマーとして知られており、その重合体も親水性になり水によく溶ける。
そこで、水に不溶性の物質を乳化させるときなどに、分散安定剤として用いられたり、インクジェット用のインクに混ぜ、ノズルが乾きにくくしたりする用途に用いられる。
ポリマーの細胞毒性は非常に低く、切手の糊や化粧品や錠剤(医薬品や食品)の結合剤などにも使われている。

この共重合体のSP値を検討した。

内容

ポリビニルピロリドンの共重合体の面白い文献を見つけたので解析してみた。

Solubility Parameters of Cross-Linked Poly(N-Vinyl-2-pyrrolidone-co-crotonic Acid) Copolymers Prepared by g-Ray-Induced Polymerization Technique
Tuncer C¸ aykara
JOURNAL OF MACROMOLECULAR SCIENCE Part A—Pure and Applied Chemistry Vol. A41, No. 8, pp. 971–979, 2004

この論文では、幾つかの共重合体を合成し、様々な溶媒に対する膨潤性を検討している。ホモポリマーの膨潤性とHildebrand SPの相関を見ると、下図のようになる。No.12の溶媒はn-ブタノールになる。

彼らはクロトン酸との共重合体を、クロトン酸の量を変え4種類合成し、同じように膨潤度とSP値を検討したが、クロトン酸の量に関わらず、ピーク位置はn-ブタノールのところにきたと報告している。

今回はこの論文をもとに、ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を用いて検討してみた。

まず最初に下の表に示すような溶媒のHSPの値と膨潤度の値を入れ込んだ表を準備する。

NoNamedDdPdHPVPCrA4.6CrA6.9CrA10.1CrA13
1 Benzene 18.4024.0251.0361.0391.1331.333
2 Ethylacetate 15.85.37.24.2081.0361.0391.2341.047
3 Tetrahydrofuran 16.85.75.74.2111.3861.1441.5381.511
12 1-Butanol 165.715.823.44217.00810.9919.4478.93
13 1-Propanol 166.817.417.61315.1878.4457.4517.249
14 Ethanol 15.88.819.415.7028.1116.7456.5576.459
15 Dimethyl sulfoxide 18.416.410.212.51610.2137.2217.1567.742
16 Pyrrolidone18.212910.8819.3727.5867.6586.775
17 1,3-Buthandiol 16.58.120.911.9748.4627.9017.0117.414
18 Methanol 14.712.322.310.97410.1438.5327.8597.448
19 Ethanolamine 16.86.8209.7959.8637.6817.7636.873
20 Glycerine17.411.327.29.16311.6848.578.2648.004

一般的には、クロトン酸の含量が増えるに従って膨潤度は下がっているようにも見える。しかし、ピークのHildebrandのSP値が同じなくらいで、あまり明確なことはわからない。

そこで、HSPiPのバージョン3.1.Xに搭載されている定量的なSphereを求めるアルゴリズムを使って、この問題を検討した。

この定量的なSphereとは、溶解度(膨潤度)などの定量的な値を再現できるように、ポリマーのHSPを求めるアルゴリズムである。
各ポリマーのHSPは以下の表のようにもとまった。

PolymerCrotonic AciddDdPdH
PVP100%017.48.814.9
PVP-CrA4.64.617.411.816.9
PVP-CrA6.96.917.812.117.0
PVP-CrA10.110.117.813.117.1
PVP-CrA131317.312.718.7

クロトン酸の含量が高くなるに連れ、コポリマーのdPとdHは増えることが判る。HildebrandのSP値の結果とは異なる。

HSPの場合、HSP Distance(HSP距離)が短いほど(ポリマーのHSPベクトルと溶剤のHSPベクトルが似ているほど)溶解性(膨潤性)が高くなる。

上の図に示すように、クロトン酸の含量が増えるに従って膨潤度は下がることが判る。

しかしこの効果は溶媒によって異なることが示される。

青で囲った領域の溶媒の平均のHSPは [17.4, 7.3, 10.8]である。
赤で囲った領域の溶媒の平均のHSPは [16.6, 9.8, 18.0]である。

青で囲んだ溶媒は、クロトン酸の含量が増えてくると急にポリマーを膨潤させる能力を失っていく。

この事は、クロトン酸は水素結合のネットワークを作っており、このネットワークはdHが18と大きな溶媒では切断されるが、10程度の溶媒では切断されないことを示しているのかもしれない。

ちなみに、HSPiPに搭載されている、Classic Sphere(古いバージョンのSphereを決定するアルゴリズム)を使ってCrA 13%の共重合体を計算すると
ポリマーのHSPは[17, 15.8,19.1] 、相互作用半径は11.65
になった。間違って球の中に入ったり、間違って外にいる溶媒は無いが相互作用半径はかなり大きい。

PVP単独

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

CrA4.6%

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

CrA6.9%

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

CrA10.1%

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

CrA13%

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

溶媒をクリックすれば溶媒の名前が現れる。7%以上膨潤する場合に赤い球で示してある。クロトン酸が増えるに従って赤い球が減っていくのが判るだろう。

Double Spheres

Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。

新しく、バージョン3.1.xに搭載された、Double Spheresのアルゴリズムを使うと2つの球が求まる。

緑の溶解球[17, 12.2, 20] 相互作用半径 8.84 (典型的なアルコールのHSP)
水色の溶解球[19.4, 14.9, 5.5] 相互作用半径 5.47 (アルデヒドや酸無水物 ??)

クロトン酸の水素結合ネットワークはdHを酸無水物ぐらいの値まで下げていると考えると合理的かもしれない。

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