2022.11.24改訂(2011.01.31)
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概要
界面活性剤の重要な指標であるHLBは、HSPとは全く相関がなく、logPと同様に単なる体積を示す指標だ。
臨界ミセル濃度(CMC)や会合数もHSPとは関係がない。
界面活性剤が安定なミセルを作った後に、そのミセルに何かが溶解する、その時にこそHSPが関与してくるのだろう。
まずは、界面活性剤について詳しく見ていこう。
2017年に東大の3年性に教えた、「分子集合体の化学」の界面活性剤に関する記述を付け加えた。
実際に計算しながら理解したいのであれば、MOOCのページでトライして欲しい。
CMC

CMC以下 | 界面活性剤がミセルを作り始める 臨界ミセル濃度(CMC) |
臨界ミセル濃度Critical Micelle Concentration (CMC)
CMCはある濃度を超えると、追加された界面活性剤がミセルの形成のみに使われるようになる濃度の事だ。
ミセルを作り始めると、物性値は急激に変化する。

そこで手始めに界面活性剤のCMCのデータを収集した。
CMCデータ
上のテキストエリアの中身をコピーし、表計算ソフトにペーストして置く。
物性値は塩ではなく、カルボン酸の形のものの物性値だ。
その際に、たまたまだが、カルボキシル化合物(酸の形)のlogCMCをlogPに対してプロットしてみた。
すると非常に綺麗な相関があった。

このことから、臨界ミセル濃度(CMC)はlogPの値で決まってくることがわかる。他の検討でlogPは分子の体積で決まっていることが明らかになっている。
そこで、さらにCMCのデータを集めこの現象が正しいかどうか検証を行った。
集めたデータを分類すると以下のようになった。


logPの時と同様に、logCMCは、どの親水部分とくっついた場合でも、分子の体積と見事な相関があることが分かった。
親水性部分の構造によってグラフの傾きが異なるので、重回帰計算を行った。

上の図に示すように、分子の体積と親水部分の構造だけでCMCを予測することが可能であることが分かった。
この場合、非常に重要であるのは、疎水部分は、含フッ素アルキルであろうが、芳香族であろうが、ただ分子の体積だけで決まっていることだ。
親水部分の重回帰の係数は(エチレンオキサイドを除いて)ほとんどの場合、2だった。
したがって、全体としてはlogCMCは疎水部分の分子体積だけで決まっていると言える。
HLB
そこで、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)という指標とlogCMCという指標は同じことを言っていることがわかる。
グリフィン法のHLB値=20×親水部の式量の総和/分子量で定義している。
親水基がCOONaの界面活性剤のHLBとlogCMCをプロットすると、下図の左になります。

フッ素化合物は分子量が大きいのでグリフィン法のHLBの値は小さくなり、2本の線が現れる。
しかし、HLBを分子の体積ベースで計算すると、上の右の図のように二つの線は完全に重なる。
CMC計算機(▶︎をクリックして開く)
HTML5に対応するブラウザーを使っていれば、上のキャンバスに分子を描けばCMCの値を得る事ができる。親水基が付加する位置にはX原子を置く。親水基としてエチレンオキサイド連鎖は想定していない。それらは全く異なる直線上にのる。詳しい分子の描き方はこちらを参照して欲しい。 他の原子を使いたいという要望が多ければ考えます。
会合数
それでは、次に、界面活性剤は何個集まってミセルを作るのだろうか?
レーザー散乱法なので調べた値がデータ集にある。
ミセルの体積は界面活性剤の体積と会合数をかけたものになります。
そのミセルの体積がわかれば、ミセルが完全な球だと仮定すると次式からミセルの半径がわかる。
V=(4/3)*πr3
半径がわかれば、ミセルの表面積(4πr2 )が計算できる。
そして、そのミセルの表面積を会合数で割ってみると、界面活性剤1分子あたり、どの位の表面積を覆えるかの指標が得られる。

上の表で計算してみれば明らかなように、疎水部の大きさにはよらずに、SO4Na一つあたり46Å2 ぐらいになる。
同様にして他の親水部分がどのくらいの面積を覆えるかを計算してみた。

芳香環に直接SO3Naが付いているものを除き、他の親水部分は皆約46Å2 になった。
エチレンオキサイドの連鎖がついたタイプの界面活性剤はEO一つあたりで覆える面積はEOの数が増えてくると逆に減っていく。

このようにEOの覆える面積の効率が減少するのは、模式図に書いたように、EOが伸びてくると効率的にミセルの表面を覆えなくなってくるからではないかと考えられる。
臨界充填パラメータ CPP

できる円錐形の底面をa, 円錐の体積をv, 稜線の長さをlとするとCPPは次のように求まります。

このCPPの値によって、作られるミセルの形状を予測する事ができる。
例えば、CPPは1/3以下であれば、球状ミセル、1/3-1/2で円筒状ミセル、1/2-1で屈曲性2分子層ベシクル、1で平面状2分子層などができるとされている。
どの教科書にも、このような記載がありますが、どうすれば円錐形の底面積aが求まるか書いてある教科書は見た事がない。
この46Å2 の底面積が作られる理由は、親水基への水分子の水和によると考えられる。では、何個の水が配位するとこの面積になるかを計算してみると、水が14個配位したのに等しくなる。
ベンゼン環についたSO3Naは、その倍近く水が配位していると言う事だ。そこで、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは少量で効く非常に優れた界面活性剤だったが、生分解しない為環境汚染を引き起こした。
界面活性剤以外の医薬品などの水和に関してはMOOCのページでトライして欲しい。
HSP(ハンセンの溶解度パラメータ)
ここまでのところ、ハンセンの溶解度パラメータは何も役に立っていない。

水に溶解しない疎水性の溶質を界面活性剤の溶液に加えたときに、”似たものは似たものを溶かす”の原理で、HSPが重要な役割をはたすのだろう。
しかし、疎水性溶質がミセルに溶解すると、疎水場の体積が増える。
すると表面積が増えるので新たに界面活性剤が来て、その表面を塞がなくてはならなくなる。
すると、また界面活性剤の疎水場が増えるので、収束計算が必要になる。
また、あるところまで大きくなると、2つに分裂しますが、ミセルが小さくなるということは、表面積が増えると言う事で、より多くの界面活性剤が必要になる。
HLBとlogPは非常に良く似た概念だが、どちらも溶解性を表す指標ではない。
そこでHSPとは相関ががない。
2本の尾
sulfosuccinates系の界面活性剤のCMCに関するメールを頂いた。
スルホサクシネート系の界面活性剤には2本の尾がある。
もし、同じ疎水場の体積なら、CMCの値は10倍くらい大きくなる。
例えば、C6H13OOCCH2CH(SO3Na)COOC6H13は体積が296でCMCが12だ。
C17H35So3Naは体積が301でCMCは0.21だ。
そして、C14H29-Ph-SO3Naの場合には体積は315でCMCは0.66になる。
そこで、同じ疎水場の体積なら、10倍のミセル体積になり、洗浄剤には適していると言えるだろう。

Sulfosuccinates系の界面活性剤の会合数をしらべたが見つらなかった。
もし、所在を知っているかたがおられたら、お教え願いたい。
以上のように、ある界面活性剤を使った場合、どのくらいのサイズのミセルが、どのくらい存在するかは見積もることができる。
次はこのミセルにどのくらいオイル成分が溶解するかだが、それはHSPが大きく関わってくると思われる。
具体的には、液液抽出の記事で説明したような分配係数になるのでは無いかと思う。
このように、HLB自体はHSPと相関はないが、EACN (アルカン炭素数との等価性)は、界面活性剤/オイル/水(SOW)システムから形成されるエマルジョンのタイプと安定性を決定する重要なパラメータだ。
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