鉛を使わないガラス作ってよ

2026.5.12

明日からMI部署で頑張って!って言われたら > 鉛を使わないガラス作ってよ

[0. ストーリー]

成分の毒性が高いから、レア・アースのように高価だから使いたくない事は多い。お偉方は「MI研究者はそれをやる為に給料払ってる」とか言う。2014年の話でMIの部署すら無い時代の話だが、泣く子と地頭には勝てない。予算は0円、期限は1ヶ月。
「専門でないのでわかりません」3回ぐらいまでは許してくれるかもしれない。
生成AIは1回目からそれなりの答えを返す事は頭に入れておこう。変なテーマを全て受け入れたら身が持たない。私はガラスは関係ないからスルーもいいけど経験を積んでおけばセンスも磨かれる。

[1. データ準備]

フリット・ペースト(結晶化ガラス接着剤)を特許検索する。特許庁のHPから封止剤特許をダウンロード(112件 1-2日)一覧表を作成4-5日。オハラ 5件、AGC 7件、ATG 2件、ヤマト 3件、ノリタケ 1件、NEG 17件、オクノ 7件、セントラル 4件、ニホンヤマムラ 6件。特許のデータは汚いデータの事も多い。特に比較例のデータは汚いことが多いので違いは明記しておく。図1のような682件のテーブルができる。酸化物の種類は図2に示すように意外と多い。今なら生成系AIにテーブル化を頼めるかもしれない。ただしAIによるOCRは気をつけなくてはならない。[*1]

[2. データのクレンジング]

ガラスの組成と物性の間には非線形性がある。データが汚いのか、非線形性があるのかは判然としない。まず、重回帰計算[*2]を行う。単純な打ち込みエラーはそれで見つかる。タイパが悪いのでクレンジングが済んだデータをください。学生ならそう言い出すかもしれない。学生は授業料を払っているお客様だ。企業系の研究者にデータをあげるなんて、それこそコスパが悪い。私はガラスの素人だ。汚いデータか非線形のデータか判別できるセンスを磨くチャンスだ。クレンジングの済んだデータは宝物だ。AIにもあげない。

[3. データ解析]

この程度のデータ数でニューラルネットワーク法を用いるなら最低でも再構築学習法[*3]をとるべきだろう。ここでは、複数の酸化物の非線形の混合効果で鉛なしのフリット・ペーストを設計したいのであるから、クロスターム重回帰法をとることにする。
このぐらいのサイズであれば、1日で収束する。結果を図3に示す。[b]の熱膨張率以外計算値は高い相関がある。本来汚いデータで線には乗ってはいけないのに、酸化物ペアにファクターを割り振る事によって線に乗っていることがある。逆に線に乗らなかったものを汚いデータとして除外するなら、本来得たい酸化物ペアの非線形性を取り逃すことになる。解析手法を変えて再構築NN法[*3]やMIRAI法[*5]を使ってみる。SOM法[*6]で分類してみる。今やり直すなら重回帰法の係数の最適化まで含めたlASSDGE法を使うだろう。

総合的判断でクレンジングするかしないか決める。ここに一番時間がかかる。計算系の仕事をしていると、実験系の研究者に何か提案しなければならないことがある。一つの方法で示唆されただけで自信を持って提案できるか?と言う問題だ。さまざまなポケットを持つ強みを身につける

[4. 知識を得る]

何のために情報化学を駆使して計算を行うのか?
論文にきれいな図を載せるためではない。もちろん無茶振りしてきた部長に答えを示すのは大事だ。
例えばガラス転移温度の場合、基礎の重回帰係数はPbOで2.21、Bi2O3で2.79になる。鉛の成分をBiO2に置き換えるなら少し少ない量で同じTgになるはずだ。
同じくらいの係数を持つ酸化物は、P2O5(3.0)、V2O5(2.28)、MoO2(2.60)になる。
熱膨張率の場合、基礎の重回帰係数はPbOで1.04、Bi2O3で0.45になる。
鉛の成分をBiO2に置き換えるなら少し増やさないと同じ熱膨張率にならない。
P2O5(0.86)、V2O5(1.07)、MoO2(0.76)なら熱膨張率的にはPbOに近い。
軟化温度では、基礎の重回帰係数はPbOで2.85、Bi2O3で5.39になる。
P2O5(6.22)、V2O5(3.22)、MoO2(-89.4)なのでMoO2は脱落か。
このように元素の周期律表で鉛の隣がBiであるので単純には似ているだろうと考えるのはある程度正しい。しかし物性値によっては係数は異なる。部長が感じた鉛の代わりにビスマスでは安直すぎないか?という疑問は正しかった。
もし、ガラスの物性値に非線形性が無いなら基礎の重回帰係数だけを見ていれば良い。
どの会社の特許も同じ答えになってしまうだろう。
ところが特許であるからには新規性、進歩性がある。「こういう混ぜ方したら結果が思いもよらなかった」がある。それをあぶり出したものがクロスタームのペアのファクターになる。その2つの酸化物を混ぜると特異的に物性値を上げる、下げるファクターが見つかる(表1-3)。例えばNEGの研究者はSrOを使って非線形性を出すのが好きなようだ。AGCの場合はSnOが好きだ。
それが定量的にどのくらいなのかを示すことができる。
大学の時に学生実験でT字菅を作った以来ガラスを溶かした事はない素人だが、こうしたパラメータを持って打ち合わせに出ることができるのは大きなことだ。他の会社のガラス設計の思想がわかる。
これが知識を得ると言うことだ。教科書にも書いていないし、ネットを見ても書いていない。pirikaのページを読んだAIだけが同じ知識を得られる。

これだけ複雑になってくると、組成の逆設計はコンピュータでやるしか無い。それは別の無茶振りで解説[*8]する

[5. 山本はずるい]

非線形性を炙り出すソフトウエアーがネットに転がっているかどうかは不勉強で知らない。それが存在しないなら、これは山本にしかできないずるいやり方だ。山本は20年以上前から自作して使ってきた。こんな解析ツールがあったらこの問題にこう答えられるのに。無いものを生み出す0-1発想の研究者と、1-100発想の研究者がいる。ネットにあるもの、購入できるものを使って他よりも早く大きく育てる。高度成長期の日本はアメリカの基礎研究にただのりして、応用研究で大儲けをした。その体験に縛り付けられている年寄りが多い間は変われないかもしれない。予算がつかない。家でチマチマ自作するしか無い。それが逆にずるいと言われるようにまでなった。

[6. 図表]

図1酸化物組成とガラスの物性一覧
図2 酸化物一覧
図3 クロスターム重回帰解析結果 [a]ガラス転移温度、[b]熱膨張率、[c]軟化温度、[d]結晶化温度
PairTg Factor
FeO*V2O5-11.626 
SiO2*Ta2O5-8.247 
SrO*Ta2O5-5.388 
Li2O*CaO-3.475 
CaO*SrO-1.406 
Na2O*SrO-1.395 
ZnO*CaO-0.530 
CaO*CaO-0.488 
Al2O3*CaO-0.454 
BaO*SrO-0.339 
SnO*SiO2-0.267 
Al2O3*SnO-0.251 
Ta2O5*V2O5-0.250 
P2O5*Li2B4O7-0.223 
B2O3*Al2O3-0.182 
B2O3*SnO-0.061 
P2O5*SnO-0.038 
BaO*ZnO-0.038 
BaO*BaO-0.024 
Li2B4O7*Li2B4O70.018 
BaO*Li2B4O70.024 
P2O5*ZnO0.025 
B2O3*Bi2O30.037 
B2O3*BaO0.064 
BaO*P2O50.066 
P2O5*B2O30.079 
Bi2O3*TeO20.114 
V2O5*Na2O0.233 
K2O*SnO0.384 
SiO2*SrO0.577 
Na2O*Na2O1.519 
Nb2O5*Nb2O57.577 
Al2O3*Cl7.960 
SiO2*Fe2O316.552 
MnO2*Al2O320.737 
表1 ガラス転移温度に対する酸化物ペアのファクター
PairThE Factor
V2O5*TiO2-868.9 
Nb2O5*In2O3-74.8 
Al2O3*In2O3-10.4 
Cl*ZnO-5.3 
V2O5*FeO-3.1 
SrO*TiO2-1.9 
F2*F2-1.7 
CeO2*CeO2-1.6 
Na2O*F2-1.1 
ZrO2*ZrO2-0.3 
SnO*BaO-0.3 
WO3*ZnO-0.3 
Na2O*Li2O-0.3 
Na2O*Na2O-0.2 
In2O3*Bi2O3-0.2 
Na2O*K2O-0.2 
WO3*WO3-0.1 
SnO*Al2O3-0.1 
CaO*Al2O30.0 
SnO*P2O50.0 
ZnO*PbO0.0 
BaO*Bi2O30.0 
Bi2O3*Bi2O30.0 
SiO2*P2O50.0 
ZnO*SnO0.0 
Al2O3*Al2O30.0 
TeO2*BaO0.0 
SnO*SiO20.1 
K2O*Bi2O30.1 
Na2O*Al2O30.1 
P2O5*WO30.1 
Sb2O3*SnO0.1 
CuO*PbO0.2 
Li2O*SnO0.3 
ZrO2*SrO0.8 
MoO2*WO32.3 
Al2O3*Nb2O56.4 
FeO*F28.2 
Cl*Cl8.9 
TiO2*In2O3211.1 
表2 熱膨張率に対する酸化物ペアのファクター
PairTs Factor
Ag2O*ZnO-65.62 
MgO*CuO-34.49 
Fe2O3*Fe2O3-5.29 
CuO*Al2O3-4.63 
Li2B4O7*NaF-3.05 
Na2O*CaO-2.07 
ZnO*CuO-1.85 
SrO*SnO2-1.66 
MgO*B2O3-1.60 
CuO*CuO-1.16 
B2O3*MnO2-0.80 
CaO*CaO-0.72 
Na2O*P2O5-0.71 
V2O5*Al2O3-0.64 
CaO*WO3-0.40 
K2O*Na2O-0.39 
B2O3*Al2O3-0.28 
P2O5*SiO2-0.27 
B2O3*SiO2-0.22 
SiO2*SiO2-0.17 
P2O5*Bi2O3-0.06 
ZnO*B2O3-0.03 
Bi2O3*Bi2O3-0.03 
Li2B4O7*Li2B4O70.02 
Li2B4O7*BaO0.05 
Al2O3*PbO0.05 
BaO*PbO0.06 
P2O5*B2O30.09 
B2O3*BaO0.11 
MgO*BaO0.66 
CaO*SiO21.00 
Li2O*Na2O1.08 
SnO*In2O31.72 
B2O3*In2O35.43 
NaF*NaF12.13 
CuO*Na2O23.82 
Na2O*MoO246.49 
V2O5*CuO103.26 
MgO*Sb2O3108.77 
表3 軟化温度に対する酸化物ペアのファクター

[7. Pirikaへのリンク]

*1: AIよ。光学文字認識(OCR)は早とちりするな。
*2: 重回帰法
*3: 再構築学習法ニューラルネットワーク
*4: クロスターム重回帰法
*5: MIRAI法
*6: SOM法
*7: LASSDGE法
*8: 他社がいい特許出してきた。対抗して


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