2026.06.24
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ダミー原子[X]エラー修正
HSPiPではダミー原子の取り扱いにエラーがあたった[*1]。同じMB6.dllを使っているのでPirika Pro Add-onでも同じエラーがあった。HSPiPは本体の方の修正が必要なので次回バージョンアップまで修正されない。Pirika Pro Add-onはHSPiPに影響を与えない形で修正を行なった。この[X]の使い方についてレジスト・ポリマーの設計を例に解説する。医薬品については既に解説した[*2]。
[0. ストーリー]
特許では、メイン骨格があって置換基をさまざまに変える分子設計は一般的だ。こういうビゲ分子を付けたら溶解性と機能性が両立できたとクレームする場合は多い。例えば三菱瓦斯化学株式会社の特許[*a]に図1に示すX-27N35IBというメイン骨格に置換基をかえて検討した例[*3]が記載されている。「化合物、樹脂、組成物、レジストパターンの形成方法、回路パターン形成方 法、及び精製方法 」というタイトルなのでなんでもありだけど、これらを合成して1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)、プロピレングリコール モノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、クロヘキサノン(CHN)に溶解するか調べている。どの置換基の場合も全部溶解するので面白くないが、こうしたケースの溶解性をハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を使って解析する方法を解説する。前提としてSMILESの構造式[*4]については理解しておく必要がある。
[1. Smilesの構造を準備する]
図1の構造の絵を描いてSmilesの構造式を得る。企業で多く使われるChemDrawなど多くのソフトがSmilesの出力は持っているはずである。pirikaではHSPiPに同梱のJSMEを多用する。使い方はJSMEで[X]原子を扱う方法[*5]を参考にして欲しい。Xを使うには左のボタンメニュー一番下のX(自分で自由な原子を設定できる)にXを設定して化合物の原子を設定すれば良い。メイン骨格のX-27N35IBを描くと、Ic6cc(I)c5Oc2ccc1ccc([X])cc1c2C(c3c([X])ccc4ccc([X])cc34)c5c6
というSmilesの構造式を得る。JSMEはSMILESを分子構造に変換もしてくれる。X-27N35IBを置換基毎にペーストして[X]のところに置換基を描いても良い。しかしあまりにも効率が悪いだろう。表1に示すように置換基の末端に[X]を配置したSmilesの構造式を準備する。後はテキスト操作でメモ帳上で置換した構造が得られる。
Ic6cc(I)c5Oc2ccc1ccc([X][X]O)cc1c2C(c3c([X][X]O)ccc4ccc([X][X]O)cc34)c5c6
[X]の隣に置換基[X]Oを置き、[X][X]を消去すればXを置換したSmilesのテキストが得られる。
Ic6cc(I)c5Oc2ccc1ccc(O)cc1c2C(c3c(O)ccc4ccc(O)cc34)c5c6
16種類の構造が得られたら、HSPiP、もしくはPirika ProのYMBを使うとSmilesを解析してHSP値や分子体積その他の物性値を推算する。今回評価する溶媒はPGME、PGMEA、CHNの3種類である。この溶媒のSMILESの構造式も準備しYMBで計算しておく。この時に大事なのは、環を表す数字だ。分子の中に環があったら適当なところを切断し、そこに同じ数字をつける。9以上の数字になると、例えば・・C12というテキストがあったとする。C1は他のC1と環を作り、C1には2という数字もついているので他のC2とも環を作っているのかもしれない。たとえばナフタレンの真ん中の炭素のようにだ。0という数字は拡張SMILESでポリマー用の繰り返しに使っている研究者がいる。そこで一般的には環の数は1-9とされている。(拡張SMILESで10以上もありうるが、まだ一般的ではない)。ただし、あまり知られていないが閉じた範囲での同じ数字は使いまわせる。例えばC1・・・C1CCC1・・・C1は1が4回出てくるが問題ない。今回のX-27N35IBは環を6つ持っている。さらに置換基3つが1つ環を持つ場合があるので合計9つになる。ぎりぎり1-9の範囲に入っている。しかし、置換基の環の数値は7にしておく。例えば[X]Oc(cc7)ccc7OCのようにする。この形でテキスト操作をする分には数字は置換基で完結するので、他の部分に再び7が来ても問題ない。このことは知らない研究者が多い。
[2. HSPの算出、1:分子全体]
SMILESの準備ができたら図2のアニメに示すようにYMBを用いHSPiP用のフォーマットを作りSphereViewerで表示する。結果を図3に示す。青い球はX-27N35IBに置換基が3つついた場合の分子のHSPを示す。赤い球はPGME、PGMEA、CHNを示す。X-27N35IBに置換基のついた構造が溶媒に溶けるなら青い球と赤い球が3次元空間中で近い事が大事だ。慣れないとこの結果の解釈は難しいかもしれない。実験の結果としては、どのレジストも溶解するのでHSP的には理解できないという言い方も正しい。
[3. HSPの算出、2:置換基だけ]
表2にある[X]付きの置換基のSMILESをYMBで処理すると置換基のHSPなどの物性値を計算する。この計算はHSPiPでは正しく行われない。Pirika Pro (MI or Add-On)を使って計算する。OCCの左に何がつくかで計算結果が変わる。
1: COCC CH3の先にエーテル酸素、その先にC2H5
2: OCC Hが省略されている、HO:推算基、その先にC2H5
3: [X]OCC エーテル酸素、その先にC2H5
1にはメチルがつくけど、3ではメチルはない。置換基として2を使ってしまうとアルコールになる。置換基のパラメータとしては値が大きく異なってしまう。
1と3の使い分けはメチルがあるかないかなので大きくは違わない。(シランカップリング剤のように3つメトキシがある場合は注意が必要かもしれない)
[X]であればテキスト操作で分子を構築しやすい。[X]があってもSMILESの計算が普通にできるのであれば使った方が正しい。
HSPiPでは[X]が使えないので[X]をCに変えて計算するしかない。
Pirika Proで置換基をYMB計算してハンセン空間にプロットする。図4を見ると溶媒は置換基の周辺に存在している事がわかる。図3と図4を比較して溶媒はレジストのどこを溶解しているのか考える。多くの研究者が同意しているが、溶媒はレジストの本体を溶解しているのでは無く置換基の部分を溶解していると判断した方が合理的だ。有機ELの設計でもそうだが、中心部分は溶かさないでスタッキングを起こさせ、側鎖の部分を溶解するのが分子設計としては大事だ。そうした検討を行うには分子全体の評価と置換基の評価の両方が必要になる。
[4. 応用]
ターミネータとしての[X]は医薬品の設計や界面活性剤の設計にとても役に立つ。次回のHSPiPのバージョンアップの際には修正をしたいが確約はできない。
[5. 参考]
*a: 三菱瓦斯化学株式会社特許:WO2020/138147
[6.図表・デモ]

Jspreadsheet CE
表1置換基のSmilesリスト
図3 分子全体のHSPと溶媒のHSP

図4 置換基のHSPと溶媒のHSP
[7. pirika.com内のリンク]
*1: YMBでのダミー原子[X]の取り扱いエラー
*2: 生物等価性とHSPiPのCLIライセンス
*3: PSMILESのMI的利用
*4: SMILESの構造式
*5: JSMEで[X]原子を扱う方法
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