ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と結石溶解剤

2022.10.24改訂(2010.4.23)

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概要

コレステロール系遺残結石に対する直接溶解剤としてのテルベン系製剤に関する研究の論文があった。
テルペン系の化合物がコレステロールを良く溶解するとあるが、その論文の中で何故テルペン系の化合物の溶解力が高いのかを、筆者は 錬金術の時代から言われている「似たものは似たものに溶ける」という言葉でしか説明することができない と記載している。

これをHSPを用いて解析する。

内容

コレステロール系の結石の溶解剤の論文があった。

筆者はd−リモネンを使った時に(毒性など様々な意味で)一番良いとしている。
飽和濃度は
d−リモネン 1090
クロロホルム 2222
エチルエーテル 3571
となるとある。

d-limoneneが”似たものは似たものを溶かす”のは良いとしても、クロロホルムとエチルエーテルは”似たものは似たものを溶かす”と言われてもピンと来ないだろう。

これをHSPを使って検討してみる。

先生たちの溶解度のデータをUSP-3,882,248から取ってきた。
またコレステロールの溶解度のデータをWikiPediaから持ってきた。

まず、Cholesterol のHSPを求める。
この化合物はHSPiPのデータベースにHcode(Hansen code)16840に存在する。
しかしHSPの値は推算値である。

試しに CholesterolのSmilesの構造式、

[C@H](C)([C@@H]4[C@]1(C)[C@H]([C@H]3[C@H](CC1)[C@]2(CC[C@@H](CC2=CC3)O)C)CC4)CCCC(C)C

をY−MBに入れて計算してみる。(スクリーンショットは古いものだ。最新版でやってみよう)

HSPは[17.4, 2.6, 5.7]体積は402.3と求まる。

次にWikiPediaにある溶媒のHSPを準備する。

テーブル
CAS Name HCode SMILES Solubility dD dP dH Volume
57-88-5 beta-CHOLESTEROL 16840 C@H([C@@H]4[C@]1(C)C@HCC4)CCCC(C)C 17.4 2.6 5.7 402.3
67-66-3 chloroform 156 ClC(Cl)(Cl)[H] ++++ 17.8 3.1 5.7 80.5
60-29-7 diethyl ether 255 CCOCC ++++ 15.49 2.9 4.6 104.7
123-91-1 1,4-dioxane 306 C1COCCO1 +++ 17.5 1.8 9 85.7
64-17-5 ethyl alcohol Ethanol 325 CCO ++ 15.8 8.8 19.4 58.6
8032-32-4 petroleum-ether ++ 14.7 0 0 120
67-64-1 acetone 7 CC(C)=O ++ 15.5 10.4 7 73.8
7732-18-5 Water 696 [H]O[H] X 15.5 16 42.3 18
71-43-2 benzene 52 C1=CC=CC=C1 18.4 0 2 89.5
110-54-3 hexane 417 CCCCCC 14.9 0 0 131.4
67-56-1 methyl alcohol Methanol 456 OC([H])([H])[H] 14.7 12.3 22.3 40.6
110-27-0 Isopropyl Myristate 7967 O=C(OC(C)C)CCCCCCCCCCCCC 16.2 2 4 322.8

これらの化合物はHSPiPにオフィシャルの値がある。
このHSPを見てみると、コレステロールのHSP [17.4, 2.6, 5.7]に近い、クロロホルム[17.8, 3.1, 5.7], ジエチルエーテル[15.49, 2.9, 4.6], isopropyl myristate[16.2, 2, 4]が溶解度が高いのは非常に納得できる。

HSPが”似たものは似たものを溶かす”と言った時には、[分散、分極、水素結合]のHSPベクトルが似たものは似たHSPベクトルのものを溶かすことが明確にお分かるだろう。

ここで言うベクトルの類似度とはHSP距離で計算を行う。

HSP距離

HSP distance(Ra)={4*(dD1-dD2)^2 + (dP1-dP2)^2 +(dH1-dH2)^2 }^0.5
(dDの前には4と言う係数が入ることに注意しよう。)

それでは、テルペン類はどうであろうか?古い特許でスキャンが汚く読み取りに苦労したが、まとめると次のようになる。

Hcode name Solubility CAS dD dP dH Volume C:CalcHSP SMILES
11440 Myrcene 2 123-35-3 16 2.2 5.1 171.6 C=C(C=C)CCC=C(C)/C
Ocimene 2 502-99-8 CC(=C)CCC=C(C)C=C
17042 Linalool 2 78-70-6 16.5 2 9.1 179.8 CC(=CCCC(C)(C=C)O)C
9093 Geraniol 2 106-24-1 16 4.7 11 173.4 C/C(C)=CCC/C(C)=C/CO
8088 Nerol 2 106-25-2 16.7 4.5 11.3 175.8 CC(CCC=C(C)C)=C/CO
9098 Citronellol 2 106-22-9 16 4.7 10.7 182.3 CC(CCO)CCC=C(C)/C
17455 Artemisia Keton 1 546-49-6 15.9 5.8 5.1 176.8 C CC(=CC(=O)C(C)(C)C=C)C
16642 Citral 2 5392-40-5 16.3 2.3 6.2 171.3 C/C(C)=C/CC/C(C)=C/C=O
18129 Citronellal 2 5949-05-3 16.2 5.9 5.2 177.4 C CC@@HCC=O
11459 Linalyl acetate 1 115-95-7 16 2.8 5.5 219.3 O=C(C)OC(C=C)(C)CC/C=C(C)C
1253 Limonene 3 5989-27-5 17.2 1.8 4.3 162.9 CC1=CCC@HCC1
19861 Dipentene 3 68956-56-9 16.7 2.2 4 161.4 C C=C(C1C/C=C(/C)CC1)C
7635 Terpinolene 3 586-62-9 16.9 1.8 4.1 159.2 C CC(C)=C1/CCC(C)=CC1
7636 Phellandrene 2 99-83-2 16.5 1.6 3.9 165.3 C CC1=CCC(C(C)C)C=C1
10445 Terpinene 3 99-85-4 17.2 1.8 4.3 159.7 C1C=C(C)CC=C1C(C)C
Sylvestrene 2 1461-27-4 16.6 3 4.1 163.1 C CC1=CCCC(C1)C(=C)C
8064 Terpineol 2 98-55-5 17 5.3 10.9 165.2 CC(O)(C1CCC(C)=CC1)C
17749 Perillaldehyde 2 2111-75-3 17.1 6.9 5.9 156.7 C CC(=C)C1CCC(=CC1)C=O
16590 Carvone 3 2244-16-8 18 5.6 6.4 155.7 O=C(CC@HC(=C)C)C(=C1)C
1133 Pulegone 2 89-82-7 17.5 8.9 5.5 162.9 CC(C1)CC/C(C1=O)=C(C)/C
17199 piperitone 2 89-81-6 17 6.2 4.5 167 C CC1=CC(=O)C(CC1)C(C)C
8957 Menthone 3 14073-97-3 17 8.1 4.4 172.3 C[C@@H]1CCC@@HC(C1)=O
1135 1,8-Cineol 3 470-82-6 16.7 4.6 3.4 167.5 CC1(C2CCC(O1)(CC2)C)C
17350 1,4-Cineole 3 470-67-7 17.1 3.6 3.7 168.5 C CC(C)C12CCC(O1)(CC2)C
Sabinene 1 2009-00-9 CC(C)C12CCC(=C)C1C2
piene 2
18978 Umbellulone 1 24545-81-1 17.7 6.6 4.1 155.1 C CC1=CC(=O)C2(C1C2)C(C)C
18002 Farnesol 1 4602-84-0 16.4 3.8 7.7 249.2 C CC(=CCCC(=CCCC(=CCO)C)C)C
17322 Nerolidol 1 142-50-7 16.4 2.7 8.7 255.6 C CC(=CCC/C(=CCCC@@(C=C)O)/C)C
17385 Bisabolene 1 495-61-4 16.7 2.2 4 236.2 C CC1=CCC@@HC(=C)CCC=C(C)C
17384 Zingiberene 1 495-60-3 16.6 1.4 4.1 237.4 C CC1=CCC@@HC@@HCCC=C(C)C

これも、コレステロールを良く溶かすものは、コレステロールのHSP [17.4, 2.6, 5.7]に近い、 Limonene、 Dipentene、 Terpinolene、 Terpineneなどであることが明確にわかる。

例外としては、 Bisabolene、 ZingibereneのようにHSPがほとんど上のものと同じなのに溶解しないものがある。
これについては色々考察しなければならないが、特徴的な違いは分子の体積が大きい事があげられる。

このように、HSPは似たベクトルのものは似たベクトルのものを溶かす。これがわかると様々に応用が広がる。

例えば、食品、飲料などでコレステロールを下げるものの有効成分のHSPはどうなのだろうか?
お茶の成分のHSPを計算してみてほしい。

ある種の繊維質もコレステロールを下げる事が知られている。
どこに吸着しているのだろうか?

それはHSPが近い所だ。

逆に低コレステロール症の子供に脂質に溶かしたコレステロールを投与する事があるが、脂質には溶解しにくいと問題になっている。

どんな脂質が良いのだろうか?
HSPが近い脂質がいいだろう。

ちなみに、結石の溶解にメチル、t−ブチルエーテル(MTBE)を使っている例もあった。

このHSPは[14.8, 4.3, 5]になる。
ちょっと外れる。
副作用もあるようだし、これを投与されるのは嫌だなーと思う。(だってガソリン用の添加剤だ)

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