PEM法、MIRAI法の前身

2026.3.31

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[0. ストーリー]

ある化学の物性値を推算したい。生成AIに聞けば世界中の知識の中から推算方法を提案してくれるだろう。でも自分の知りたい物性値の推算方法が無い、もしくは適用範囲が限定的なとき、人間の研究者の出番だ。どういう式の形を考えれば良いか? 識別子はどんなものが使えるか? 無いものを作る。一番楽しい作業だ。PEM法はいまだによく使う。

[1. 概要]

化学工学の分野では物性値を多変数の多項式で表すことがある。Brock-Bird法による表面張力推算式は次のようになる。
σ=Pc2/3Tc1/3Q(1-Tr)11/9  (1)
Q=0.1207(1+Tbr*ln (Pc)/(1-Tbr))-0.281
Pc : Critical pressure、Tc : Critical temperature、Tr : Reduced temperature、Tbr : Boiling Point/Tc
どのような物性値が表面張力(σ)に影響を与えるか予想がついた場合でも(1)式の指数はどのようにしたら決定できるか。2005年にpirika.com社CEO山本博志はPEM法(Polynomial Expansion Method: 多項式展開法)を開発した。当時代替フロンを開発するために分子構造から物性値を予測し候補化合物を絞り込むことを行なっていた。ニューラルネットワーク法はすぐに相関係数の高い式を作る事ができるが、予測性能が出なかった。そこで、図1に示す一部多層化ニューラルネットワーク法を開発した。より少ないデータで予測性能が出やすくなる。さらに化学系の物性値をNN法で学習させるときの実験誤差の問題を解決しなければならなかった。教師データに誤差がある場合、NN法は誤差を含め予測値を誤差逆伝播法で修正してしまうため過学習を起こしやすい。そこでフィードフォワード法を採用した。PEM法の結果は博士論文[*1]で公開した。当時計算したものは物性化学のページ[*2]におく。

[2. PEM式]

Brock-Bird法なら両辺の対数を取れば重回帰式になるので係数は求まる。
一般式(2)のNが1以外には簡単には指数は求まらない。またXkが(B1*Xk1+B2Xk2+・・Bn Xkn)という多項式である場合にも定数や係数は簡単には求まらない。

P=C0+i=1NCiX1αiX2βiXnφi  (2)P=C_0 + \sum_{i=1}^{N}C_iX_1^{\alpha_i}X_2^{\beta_i}・・X_n^{φ_i}  (2)

Pirikaの方法は、定数、係数の決定に遺伝的アルゴリズム(GA)法[*3]を使う。
微分係数や数学的な取り扱いなしに係数を求める事ができる。ただし収束計算には時間がかかる。

[3. N=1のPEM]

Brock-Bird法との比較のためN=1でPEM計算を行った。
σ=A+B*Pc0.397Tc0.483Q0.279(1-Tr)1.084 (3)
A= -1.366 、B= 0.734
(1)式のBrock-Bird法ではAの値は無くBの値は1になる。またQの値の指数は1である。PEM法では汎用性を持たせるためにそうした仕様になっている。
図2のグラフの横軸には解析に用いた化合物の表面張力DB値を、縦軸には[a]Brock-Bird法計算値、[b] PEM法計算値を示す。明らかにPEM法の方が精度が高い。
この精度の向上はA,Bの定数の為ではなくQ値の指数にある。
表面張力のσをQで割って仕舞えばQ値の指数は1になる。それをPEM法で計算した。
σ/Q=Pc0.492Tc0.250(1-Tr)1.115  (4)
σ/Q=Pc0.666Tc0.333(1-Tr)1.22  (1)改
Brock-Bird法の係数(1)改と比べると少し係数が異なるが、図2[a]と図3[a]を比較するとどちらの精度も大きくは変わらない事がわかる。表面張力とQ値を比較すると、図3[c]に示すようにほとんど相関がない。そこでPEM法はQ0.279とすることでQ値を圧縮してしまうという解を見つけ出す。その結果としてPEM法の方が精度が高くなる。

[4. N=2のPEM]

式(2)で多項式を2個以上組み合わせる事が可能だ。表面張力の計算ではN=2にしても効果はなかった。

[5. PEM法の制限]

指数がマイナスからプラスに変わることによって関数は変化する(図4)。基数がゼロから1の間と、1以上で様相が少し異なる。しかし基数(底)が負の場合には指数は整数のみになる。そこでPEM法では基数をゼロ以上にする必要がある。
ここで問題になるのが(1-Tr)という変数である。Trは測定温度/臨界温度なので1-Trは0-1の間になる。PEM法では全てのグループに0を足すか1を足すか選べる。1を足した場合(1-Tr)は全て1以上になる。PEM法で定数を1とした場合と0とした場合の指数を決定した。
1を足した場合、POWER(((1-Tr)+1),1.694)
0を足した場合、POWER(((1-Tr)+0),1.0913)
指数の値は1.694, 1.0913と大きく異なる値をPEM法は見つけてきた。図5にプロットを示す。基数の範囲も指数も大きく異なる非線形関数であるが、power関数としてみた時にはかなり良好な直線関係になる。この絶対値の違いに関しては式(2)のC0,Ciで吸収されるので大きな問題にはならない。
個人的な感覚としては、0-1にスケーリングしたほうが良いように思える。

[6. PEM法の応用展開]

図1の一部多層化NN法で示した模式図をGA法でパラメータ決定するMIRAI-E, MIRAI-Gのプログラム[*4]を開発した。またPEM法の発展形として式(2)のNを4とする特殊なHSP-MIRAI法[*5]を開発した。最初の4列にハンセンの溶解度パラメータを入れ、物性値、例えば表面張力をHSP-MIRAIで解析すると表面張力を分散項、分極項、水素結合項に分割できる。接着性など材料の表面が対象になる場合には大事な技術になる。

[7. 図表]

図1一部多層化ニューラルネットワーク法
図2 [a] Brock-Bird法、[b] PEM法の計算結果比較
図3 [a]Qに指数を割り振らない。[b]PEM法で求まったQの指数、[c] Brock-Bird法のQ値
図4基数が0-1の間と1以上での指数の値の違いによる関数の変化
図5定数1を足した場合と足さなかった場合の比較

[8. pirikaのリンク]

*1: ケモインフォマティックスを用いた フロン代替化合物の物性推算法の開発とその利用に関する研究 山本博志、学位論文
*2: pirika 物性化学のページ
*3: 遺伝的アルゴリズム(GA)法
*4: MIRAI-E, MIRAI-G
*5: HSP-MIRAI法


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