にょろにょろ表面処理

2025.07.6

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注意:HSPiPの機能ではありません

[0. ストーリー]

複合材料を設計する時には、例えばポリマーと無機物のHSPが揃っていると強度や分散性が高くなることが期待できる。不幸にも材質のHSPが異なるのであれば無機物の表面を改質することを考える。シランカップリング剤で表面改質する場合、どう研究を進めるか示そう。

[1. 概要]

無機物の表面にシランカップリング剤をコーティングして、高分子との親和性を高める。表面の問題なので表面張力の分散項に着目したりもする。ここではハンセンの溶解度パラメータを用いた処理を見ていく。(実際には利用した論文(*a)があまり良いものではなかった。磁性体にシランカップリング剤を処理してNylon6とでコンポジットを作ったという話だ。まずNylon 6の溶解性試験をしてNylon 6のHSPを決める。次にカップリング処理した磁性体をCapillary Penetration Methodで接触角を測定する。その接触角からHSPを決め、Nylon6との相性を調べている。Nylon 6の溶解性試験に問題があり正しいHSPが得られていない。接触角の測定値に問題があり得られたHSPの信頼性が低い[*1]。良い論文の募集中!)
まずシランカップリング剤のHSPを得る方法を考える。Dowのカタログ[*b]にはHildebrandの1次元SP値が図示されているが、個々のカップリング剤のSP値は記載されていない。HSPiPに搭載のY-MBを使えば計算値を得ることができる。次にポリマーのHSPを得る。一般的なポリマーであればHSPiPのDBに登録されている。実際の試験結果があればそれを用いる。ポリマーのHSPについては誤解が多い。溶媒のHSPは一つに決まる。しかしポリマーの場合には、溶解性試験、膨潤度測定、固有粘度法、機械強度劣化など測定方法によってポリマーのHSPは異なる。複合化の条件に合わせた測定方法を考えた方が良い。

[2. シランカップリング剤]

ダウのカタログ図1に示すシランカップリング剤のSP値の違いと、ガラス強化ポリスチレン強度の関係が示されている。カップリング剤のSP値が10(単位がCalベースなので、一般的なMPa1/2に変換するには2倍する)の時に強度が最大になる。ポリスチレンのSP値は8.5-10.3ぐらいである。強度が最大になるシランカップリング剤のSP値は上に凸になりSP値が10ぐらいの時に最大値になる。そこで複合材料のマトリックスのSP値と充填材のSP値が揃った時に強度が最大になると考えられている。
それでは、Dowの研究者はどのようにしてカップリング剤のSP値を得たのだろうか?
HSPiPに搭載されているY-MBは、分子のSMILES構造式からHSPを計算する。

原料のシランカップリング剤は、多くの場合アルコキシ・シランSi(-OR)3の形で使う。アルコキシが加水分解しR-Si(-OH)3になる。無機物の表面のOHと脱水縮合反応しSi(-O)3のエーテル型になる。表面はどのレベルの官能基まで計算に含めるかが問題になる。図2の左はSiから上の表面基のみ、真ん中は、R-Si(-O C)3、右はR-Si(-O)3までを含めてSMILESの構造式を作りYMBで計算を行った。

ポリスチレンのHSPは既知だとすると、シランカップリング剤とポリスチレンのHSP距離は簡単に計算できる。図2に示すように横軸にシランカップリング剤のtotHSPをとり、縦軸に12-HSP距離(上に凸にするため)を取る。HSP距離が短くなると12-HSP距離は大きくなり、カタログと同じような山形になる。
その山の位置を見ると表面基のみで計算したHSPとほぼ一致している。Si-O(エーテル)まで入れても良いが、真ん中のカップリング剤全体を計算したのでは合わない。
実際にはカップリング剤の表面カバー率によっては基材周辺の影響を受けるかもしれない。
ダミー原子を使ったY-MBの計算方法を示す。JSMEの原子にX[*2]を入れれば簡単にSmilesの構造式が得られる。その構造をHSPiPの図3のようにYMBに入れれば、各部分のHSPが計算できる。(補記 20260520[*3]に記載するが、Abbott先生の実装が間違っていて山本の意図した計算結果にはならない)
ダミー原子[X]はポリマーの繰り返し単位に使っている。繰り返しユニットを[X]で囲む。この処理は元々は、置換基の処理に使うのに導入した。R-[X] [X]-R’の[X][X]を消せばR-R’になる。R-CH2とR-CH3では大きな差は無いかもしれない。
しかし、SMILESの構造式の場合、R-Oにしてしまうと、自動的に末端にHを付けてしまう。するとアルコールになってしまう。そこでR-O[X]にしておく。するとYMBは自動的にO@Si(Siにつくエーテル酸素)が3つあると認識してくれる。
表面基の場合も 表面基-[X]、[X]-Siに分割すれば、自動的にHが付くことは無くなる。
 HSPiP ver5-6ではXはターミネータとしては使えない。

PirikaPro (Y-MB25Pro)はアッパーコンパチなので同じように処理される。

[3. ナイロン6のHSP(別の論文)]

元の論文のナイロン6の溶解性試験は酸性溶媒のみを使ったものであった。そこでナイロン6のHSPは別の論文のデータから決め直した。非常に古いが、繊維機械学会誌 にNylon 6の膨潤に関する論文があった。

Nylon 6とPETの溶媒に対する膨潤性のデータが記載されている。
このデータを元にNylon 6のHSPを決定し直した。結果を図4に示す。ブレンステッドの酸塩基でみても、ルイスの酸塩基でみても、膨潤性でみる図4の3次元グラフは良溶媒が値が、大きい方へ広がっている。実際にデモ2で確認してほしい。

図5に示すように膨潤試験で求まったHSPは、溶解性で求まったHSPと比べ、dHやdHac, dHbsが大きくなる。また溶解性から計算したナイロン6のdHac=9.7, dHbs=6.9と酸性ポリマーと判断されてしまう。
膨潤性でみると、dHac=10.7 dHbs=18.7と塩基性ポリマーになる。(あくまでも、挟み撃ち法でそう決まっただけで、酸塩基相互作用で溶解した場合には違う解釈にはなるが)
Nylon 6のHSPとしては膨潤性から見たほうが良さそうである。

[4. 論文で使われているシランカップリング剤]

論文で使われていたシランカップリング剤を図6に示す。論文ではカップリング処理した磁性体をCapillary Penetration Methodで接触角を測定する。その接触角からHSPを決めたとある。しかし溶媒の表面張力に対してCOSθをプロットしても相関が得られない。そこでカタログにあったカップリング剤のHSPを決定したのと同じようにYMBを使ってHSPを算出した。

Dowのカタログにあったカップリング剤と同じようにこの4つのシランカップリング剤のHSPを算出した(図7)。
論文に記載のHSPは水素結合項が少し大きすぎる。SiOの酸素はSi用のエーテル酸素を使うべきだが、一般の炭化水素用のエーテル酸素を誤用したのでは無いだろうか。
接触角から計算したHSPも併記したが傾向すら得られていないようである。

[5. ナイロンの膨潤度の論文から決めたHSPからYMBで計算したカップリング剤のHSP距離]

シランカップリング剤のどこまでをHSP計算に含めるかによってカップリング剤のHSPは異なる。
ナイロンの膨潤度のデータから決定したポリマーのHSPとYMBで決定したシランカップリング剤のHSPで、HSP距離の順番は全てのケースで一致した(図8)。
つまりポリマーとシランカップリング剤との相性は図9に示すように、UPTMS>>NPTMS>APTMS>ALTMSの順になる。

YMBで計算したシランカップリング剤のHSPからはUPTMSを使った時に一番相性が良いと予測された。別にHSPを使わなくたって、僕なら構造見ただけでUPTMSを使う。
似たものは似たものを溶かすと言うときに一番大事な似たポイントは同じ官能基を持つことだろう。
もとの論文のポリマーのHSPも微粒子のHSPも使えなかった。
しかし、他の論文のデータから作ったポリマーのHSPとYMBで計算した微粒子のHSPについては合理的な答えを返しているように思える。

[6. シランカップリング剤のカタログから]

シランカップリング剤のHSPをYMBで計算するなら、カタログに載っているものは全て計算できる。

軸を変えながらどんなカップリング剤が良いか提案することができる(図10)。

[7. demo]

デモ1:シランカップリング剤のハンセン空間表示(Sphere Viewer)

デモ2:ナイロン6の膨潤性試験結果のSpherfe Viewerアプレット

デモ3: カタログの中からさらによくマッチしたカップリング剤を探す

[8. 図表]

図1 シランカップリング材のSPと複合材料の強度の関係。
図2シランカップリング座をどこまで計算するか?
図3 HSPiPユーザーでも知らない裏技
表1溶媒の種類と膨潤性
図4 膨潤性から求めたHSPをSphere Viewerで見た図
図5 ナイロン6のHSP 測定方法の違い
図6論文で使われていたシランカップリング剤
図7 YMBを使ったカップリング剤のHSP算出
図8 シランカップリング剤のどこまでをHSP計算に含めるか
図9 相性
図10 クラッシクな3D-HSPでは正しく判断できない。

[10. 資料]

*a:「Functional composite material design using Hansen solubility parameters 」Results in Materials 4 (2019) 100046 Shinichi Tsutsumi et. al.
*b: ダウカタログ:26-2566-42-z003-silane-coupling-agents.pdf

[11. pirikaへのリンク]

*1: 論文通りにポリマーのHSPと無機物のHSPを求めてみる
*2: JSMEで[X]原子を扱う。
*3: HSPiP ver 5-6でのXの不具合
*4:


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この話を聞くと、私はムーミン谷のニョロニョロを思い出す。

このページを読んだ人も、これで「表面処理といえばニョロニョロ」と頭に刷り込まれるだろう。