キクイムシの集合フェロモン

2026.7.1

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溶解度パラメータの現在・過去・未来 > においは3次元HSPでは足りない > キクイムシの集合フェロモン

[0. ストーリー]

「昆虫のフェロモン(1976)」という本(*a)を読んだ。キクイムシの集合フェロモンの構造が特定されていたのでHSPを計算した。一般的なテルペン化合物と共にハンセン空間にプロットし、化合物の意味を考えようかと思った。古い本なので入手は困難だと思うが(アマゾンで中古本が売っている!)、我が社への派遣AI社員、ドラ美似(GoogleのGemini)に聞いたところ上手に研究方針を提示してくれた。

🍵 📜 ご隠居が出した課題:

昆虫のフェロモンという本を読んだ。キクイ虫が松を食べて出した糞と木屑の複数テルペン化合物の混合物がキクイムシを呼び寄せている。その集合フェロモンを検討している。

松茸の香り[*1]に書いたように、香りというのは、複数の化合物の集合体であることが多い。単品の化学物質でバラの香りになるのではない。昆虫が「みんな集まれ」香りを出すと言っても、単品での香り化合物であるとは言えない。香りがHSPのハンセン空間上の複数の領域を占めている。そのパターンが一つの香りと昆虫に認識される。あくまでも仮定の話であるが。

[1. データ]

Draminiありがとう。表1にテルペン化合物の1覧を示す。RiのカラムにあるTはテルペン化合物、Fはフェロモン性を示すもの、Wは木材由来の化合物になる。化合物はSMILESの構造式をPirikaPro[*2]を使って解析しHSPと水素結合の分割値を得た。
木材の化合物
3-Carene 13466-78-9 松やにや柑橘類などに含まれる天然のモノテルペン
α-Pinene 80-56-8 マツの多くの種に含まれる油から見つかり、殺虫活性
Myrcene 123-35-3 ミルセンはキクイムシのフェロモンでもある
Camphene 79-92-5
構造が異なっていてもHSP空間中で同じような位置にいる化合物が同じような香りを与えるのであれば農薬メーカーは安価な満員御礼フェロモンを開発できる。

[2. HSPの関係]

  • 1次元のSP値 割愛
  • クラッシック3次元HSP
    図1に3次元HSPをハンセン空間にプロットした。30,000 匹のオスから集めたフラスから単離されたフェロモンIpsenol、Ipsdienol 、Verbenolは水色で示している。比較的似た位置にいる。Linaloolもこの領域に近い。木材に含まれる3-Carene、α-Pinene、Myrcene、Campheneは緑色の球で示している。Verbenone、Brevicomin、MCH(3-Methyl-2-cyclohexen-1-one)は濃度次第で集合フェロモン/坑集合フェロモンになる。pirika.comでは満員御礼フェロモンと呼ぶ。HSPからは、緑の領域の木材、水色の領域の集合フェロモン、集合-坑集合をコントロールする満員御礼フェロモン領域の3つの役割があると考えることができる。集合フェロモンであるFrontalinが満員御礼フェロモンに近くなるのは理解が難しい。もしかしたら満員御礼が切り替わる濃度が大きく異なるのかもしれない。
  • 次世代のHSP2
    香り集合体の水素結合分割項は分子全体を平均化した値で見るより、分子の中の一番強烈な官能基だけで判断した方がわかりやすい。4次元のHSP(4D-HSP)になるので視認性が悪い。図2に示す様にグラフ化する時に軸のアサインをかえて表示させ全体像をつかむ。分割式としては山本がバランスをとったElectron Donor/Acceptor(yEA/yEA)の値が最大の官能基だけを見る。LinaloolとMCHは木材に近いグループに配属になった。集合フェロモンIpsenol、Ipsdienol 、Verbenolはほぼ同じ領域にくる。分子中の官能基が例えば水酸基だけなら、どの分子でもyEAL/yEALは同じになる。そこで[dD,yEDL, yEAL]表示、[sq(4*dD2+dP2), ,yEDL, yEAL]表示で,yEDL, yEALが重なる。化合物の役割が理解しやすくなる。実際に回転させ位置を確認すると良い。どの表現が解釈しやすくなるか考えるのは人間の役割だ。図とがグラフは多次元を思い描けない人間用のものでAIには式がすべてだ。

[3. 応用]

松食い虫の被害に対して誘引剤が設計されている。しかし、満員御礼フェロモンのように、濃度次第で忌避行動を取らせるシステムでは無い。(イメージ的には真空管の増幅作用のような機構に思える)次世代のHSP2を使って3つのゾーン(集合フェロモン、樹木の出すテルペン、満員御礼フェロモン)を設計していくのが大事になる。
ケルキボルア(一般名:cis-4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサ-2-エン-1-オール)」CAS:29803-82-5
SMILESは次の様になる。
CC(C)C1CC(C(=C1)C)(O)C
HSPiP、もしくはPirikaProを持っているなら計算してハンセン空間にテルペン化合物と一緒にプロットしてみよう。実際のフェロモンは合成の難易度が高く高価なものが多い。同じような匂い(HSP)の香料が販売されているなら、それを試してみるのも良い。その際には25℃での蒸気圧を計算してみよう。(Antoine定数の推算値が出力されている。 logPmmHg=Antoine A – Antoine B/(25+Antoine C)で計算できる。
香料は鈍い人間の鼻で感じるようなものなので分子が小さめで蒸気圧が高い。濃度が高いと満員御礼フェロモンになってしまう可能性がある。
そうした薬剤を徐放するポリマー(HSPが香料に近いポリマーなら揮発しにくい)を設計してみよう。
実際には分子の形(鏡像異性体)によっても匂いの感覚は異なる。HSPだけでどうにかなるものでは無い。pirika.comで提供しているSMILESの構造式から3次元分子構造を組み立て、CNDO/2分子軌道計算を行ってみよう。(テキストエリアにSMILESの構造式を入れてReadする)

HOMOやLUMOの軌道がどの向きにどのくらいの大きさなのか見ることによって立体としての分子の理解が進む。
昆虫用の集合フェロモンは他にも色々ある。(ドラ美似、調べてくれてありがとう)
サバクトビバッタの集合フェロモンは、4―ビニルアニソールとされた。SMILESの構造式はCOc1ccc(C=C)cc1となる。カメムシ(チャバネアオカメムシなど)の代表的な集合フェロモンは、(2E,4E,6Z)-2,4,6-デカトリエン酸メチルだ。SMILESの構造式はCCC\C=C/C=C/C=C/C(=O)OC となる。
トコジラミの集合フェロモンは、ジメチルジスルフィド [CSSC]、ジメチルトリスルフィド [CSSSC]、(E)-2-ヘキセナール [CCCC/C=C/O]、(E)-2-オクテナール [CCCCC/C=C/C=O]、2-ヘキサノン [CCCC(=O)C]、ヒスタミン[C1=C(NC=N1)CCN]とされている。ヒョウヒダニの集合フェロモンは、ギ酸ネリル[CC(C)=CCC\C(C)=C/COC=O]、プロピオン酸ネリル[CCC(=O)OCC=C(C)CCC=C(C)C]、ペンタデカン[CCCCCCCCCCCCCCC]となる。
おなじハンセン空間にプロットしてみよう。
ヨーロッパでの被害も深刻だ。温暖化や熱波による干ばつでトウヒなどの森林が弱り、ヤツバキクイムシ(トウヒキクイムシ)などの大量発生が起きている。ドイツやチェコなど中欧を中心に数百万ヘクタール規模の森林が枯死し、木材供給や経済に深刻な打撃を与えている。
「松食い虫問題どうにかして」ってAIに言えば、ロボティクス使ってこの領域のもの配合した処方を作ってくれる時代がすぐに来るだろう。手足を持たない私みたいな研究者にとっては良い時代になったものだ。

昆虫(どうやら植物も)香りは重要なコミュニケーションツールである。鳥の歌声をLLMで解析して鳥の会話を理解するという研究が進んでいる。昆虫のコミュニケーションを香りのハンセン溶解度パラメータとLLMで解析なんていうのもあながち夢ではないかもしれない。全ての生き物が喋り始めるとうるさくてかなわないが。

昆虫のホルモンは独特の表記を使うことがある。
EEZ-4,6,10-16AC
これは二重結合のE体、Z体が4,6,10の位置にあって炭素差が16でアセテートになっているものを表す。
これをSMILESに変換するWebアプリはドラ美似がすぐに作ってくれた。

🧪 脂質・フェロモン記法 → SMILES 変換

EEZ-4,6,10-16Ac」や「E4,E6,Z10-16Ac」などの長鎖誘導体の略記法を、立体化学(E/Z体)を保持したSMILES構造へ変換します。(複数行入力にも対応)
対応している官能基(末尾):
  • Ac : アセテート (酢酸エステル)
  • OH : アルコール
  • ALD : アルデヒド
  • Kt : メチルケトン
  • COOH : カルボン酸
  • H : アルカン(無置換炭化水素鎖)

[4. 図表]

Jspreadsheet CE 表1テルペン化合物リスト

図1 混合集合フェロモンのHSP空間上の位置
Pirika SphereViewer 3D / 4D (Hansen Solubility Sphere)
🧪 Pirika HSP
Sphere:
Axis:
Radius:
3D: [手前: 2*δD, 右: δP, 上: δH]

黄色の小さな球は一般のテルペン化合物である。マウスでクリックすると化合物名が表示される。集合フェロモンと似た香りはハンセン空間で近い位置にあると考える。

Pirika ProのyEDL, yEALのデモ: 集合フェロモン、樹木の出す香り、満員御礼のフェロモンは水素結合をyEDL, yEALに分割した時に一番理解しやすい。機能ごとにゾーンが分離する。同じゾーンに属する一般的なテルペン化合物は同じ様な機能を示す可能性がある。特に満員御礼フェロモンは濃度次第で効果を反転させる能力を持つ。

Ipsenol、Ipsdienol 、Verbenolはほぼ同じ位置に来る。Frontalin、Brevicomin、Verbenoneもほぼ同じ位置に来る。軸を切り替えながら確認するように。3次元、4次元HSPのハンセン空間の3箇所に香り成分が存在するパターンの設計が大事なのだろう。

図2 4D-HSP

[5. 参考文献]

*a 昆虫のフェロモン 東京大学出版会 1976年 湯嶋健

[6. pirika.com内へのリンク]

*1: 松茸の香り
*2: Pirika Pro ツール群
*3: においは3次元HSPでは足りない


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🍵 📜 ご隠居が出した課題:

このページ見て 化学系研究者として何を思うかレポートして。

ふーーん。満点あげるけど、僕のこの書き方だと徐放性ポリマー設計に行ってしまうんだ。それはそれで参考になるなー。僕はフェロモン分子は高価だから安い代替探すになるかと思っていたのに。ポリウレタンの棒に染み込ませておいてなんていう使い方はいいかもね。大学の先生を引退しておいて良かったよ。学生がこんなレポートコピペして提出始めたら気が狂っちゃう。