ネット際の魔術師、ED/EA

2025.05.11

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ハンセン溶解度パラメータ (HSP) Doc

注意:HSPiPの機能ではありません

酸素分子がネットワークをすり抜ける。

これまで、多くのHSPの解析は、HSPが既知の溶媒を使って挟み撃ち法で溶質のHSPを決めてきた。しかし、ポリマーの物性推算が進歩するにつれ、ポリマーのHSPを使って他のもののHSPを決定する事が可能になってきた。
ただし、クラッシックなHSPだけで判断できないことも多い。
今回は、ポリマーに対する酸素の透過係数で評価を行う。

データの準備

YMB25Pro4MIユーザー用に今回解析したデータをデータを提供しよう。Excelにコピペして、説明に従ってやってみよう。

New Sphereフォーマットの作成

ポリマーのHSPを構造のみからY-PB24Proを使って計算する。

ポリマーSmilesというのはポリマーの繰り返し単位の両末端に[X]をつけたものだ。これを含むタブデータをY-PB24Proに放り込んで、New Sphere計算用のオプションにチェックを入れてYPB計算実行をする。出力を再びExcelに戻す。
(エクセルへ、エクセルからのコピペがどうしても多くなってしまう。Excel上で動作するOffice Scriptで作ったものもあるが、クライエントの環境でOffice Scriptの利用を許可しない所が多くお蔵入りしている。)

New Sphereフォーマット

Y-PBは1行づつポリマーSMILESを解析して上記のテーブルを作成する。
最新版では少し値が異なる。これは(どこかで説明するかもしれないが)グラッフィック効果を揃えるためでもある。

新距離の33式計算

距離の式の計算は溶媒系もポリマー系も同じプログラムを使う。
今回のようにScoreが透過係数のような実数を使う場合には、解析は定量的な解析になる。

HSPを使った定量的解析

33式の計算で探しているのは、ハンセンの溶解球の中心だ。(定性的解析と異なり溶解球の半径は探索しない。)なるべくHSP距離と透過係数に高い相関があるような点を求める。(3次元以上はうまくプロットできない)
これはとても不思議なことだ。中心からのHSP距離はスカラー量だ。どの方向へ離れても、距離だけで透過係数が決まるという。
どんな時にも確実に成立するとは言えないが、このケースでは比較的うまく行っているようだ。
実際にSphere Viewerで自分でぐるぐる回転して求まった中心を確認してみよう。

球をクリックすると名称が表示される。ShiftキーやOptionキーを押しながらドラックすると拡大、縮小、移動を行うこともできる。
このViewerはYMB25Pro4MIに組み込まれているので、自分のケースをすぐに確認する事ができる。

どの距離の式が酸素透過係数と一番高い相関があるか?

Excelでひとつひとつグラフを書いても良いが、33式のビュアーで検討してみよう。

このテーブルviewerもYMB25Pro4MIに組み込まれているので、自分のケースをすぐに確認する事ができる。

クラッシクHSPの場合

求まった酸素のHSPはハンセン先生が報告している値とほぼ同じなので、これで十分なような気がする。

[dD, A, B]表現

水素結合項を分割することの意味は、「HSP距離の33式詳説」で解説した。ブレンステッドの酸塩基、ルイスの酸塩基を導入した場合に、酸素の透過係数の表現がどう変わるかを3軸を変換して見ていく事にする。

左のセレクターで[dD, A, B]を選ぼう。3次元までしかプロットできないので、どれを3軸に置くか指定する。dPは無視するということだ。そして、A,Bに何を使うかを選ぶ。Laというのは一番大きい値を持つ官能基だけを考えるというオプションだ。これは今回はあまり効かないようだ。[dHac,dHbs]や[Abraham Acid, Base]はブレンステッド酸・塩基の分割になる。ブレンステッドの定義では、電気陰性度の大きい酸素や窒素についた水素が活性水素とする。プロトンを供与、授与の度合いが酸塩基の値になる。この定義では、普通の分子では、カルボン酸、アルコール(両性)以外は酸化合物になれない。3次元プロットしてみると明らかなように平面を外れるものは2つぐらいで、ほとんどのポリマーは[dD, B]平面に位置する。(これが未だにHSPiPでdD, dP, dHのクラッシックHSPが使われ続けている理由だ。)
それに対して、[dD, ED, EA]で表現すると、ポリマーは3次元空間に広く分散する。

[ED, EA]を使った他の表現

色は青いほど酸素の透過係数は大きい。3軸に選ぶものを変えると、どういう物性値が酸素の透過を決めていくのか見えてくる。

ポリマーの酸素透過性とはなんぞや?

クラッシクなHSPで酸素のHSPが求まったから、それでペーパー書いて終わり。
それも良いが、もう少し、何が起きているかよく考える癖をつけよう。

ルイスの酸塩基相互作用(log ED*EA)が大きいと酸素ブロックする言える。ネット際の魔術師として、ED*EAが重要な意味を持つようである。

「新しい機能膜」という古い書籍の記述

包装材料のバリアー性に関する記述だ。
PVAは水素結合のネットワークを作ることにより、主鎖の運動が抑制される。
PANは電荷相互作用、PVDCは塩素の立体障害で主鎖の運動が抑制される。

クラッシクなHSPで説明できるのはPVAだけだ。dHは全てのポリマーでほぼ変わらない。
次世代のHSP2でははっきり傾向が出る。もしかしたらユニットセルの分子体積あたりのED*EAにしたらもっとスッキリするかもしれない。

δNetでも理解できる

δNetの説明は、微粒子のハンモックを参照してほしい。簡単に言えば正則溶液理論で記述できない、ネットワーク分の溶解度パラメータのことだ。

YPB24Proで計算されるdNetも酸素の透過係数と相関がある。
そしてlog ED*EAとdNetも高い相関がある。

ネットワークを作る原動力は、ルイスの酸-塩基の相互作用と考えないと話が合わない。

YMB25Pro4MIのユーザーは色々な表現を試し、解釈を深めていこう。


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