溶解度パラメータのパラダイムシフト

2026.5.25

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溶解度パラメータの現在・過去・未来 > 溶解度パラメータのパラダイムシフト

[0. ストーリー]

溶解度パラメータに限らず、サイエンスの発達をパラダイムシフトの面から評価することがある。溶解度パラメータの歴史を振り返る。

[1. 第1のパラダイム]

アリストテレスの時代から始まった経験・実験的手法の時代
紀元前450年、ギリシャ, Empedoclesは四元素説を唱えた。四元素とは、この世界の物質は、火・空気(もしくは風)・水・土の4つの元素から構成されるとする概念である。
Empedoclesは「愛は物を引き寄せ、憎しみは物を引き離す」と言った。愛と憎しみの間には境界がある。英語のAffinity(親和性)は、ラテン語のL.finire(境界を定める)が語源だ。ハンセンの溶解度パラメータでも良溶媒と貧溶媒の境界が必要である。その境界は個々の研究者の解釈で良い。

[2. 第2のパラダイム]

自然哲学から自然科学へと変わった、ニュートンの1600年代
天文学や電磁気学と異なり、化学は遅れをとる。(多分温度が測れなかったからではないだろうか。温度計には均質なガラスの細管が必要だった)
溶解に関しては、錬金術(相溶化した合金)の時代。錬金術は、元素転換術ではない。金の輝きを保ったまま水増しする技術であった。他の金属と合金にすると比重が変わる。偽金貨はアルキメデスの原理で判定した。
金属合金の相互溶解性は元素のSP値の差で解釈しようとする試みも最近は行われている。触媒のシンタリング、TurnOverなどの解析にもSP値の差は使われる。

[3. 第3のパラダイム前:第2のパラダイム終期]

Gibbsの混合の自由エネルギー ΔG:0かマイナスの時に溶解が起こる。(1876年から1878年にかけて発表された一連の論文)
ΔG=ΔH-TΔS
ΔH=φ1φ2V(σ12)2 12)2 が小さければΔH小さくなる。
Hildebrandの溶解度パラメータの定義 1964年
σ={(ΔHv-RT)/V}0.5    =   (CED)0.5
φ:体積分率、σ:SP 値 ΔHv:蒸発潜熱  V:分子体積 、R:ガス定数 CED:凝集エネルギー密度
蒸発潜熱は分子を一つ取り出すエネルギー。できた空隙に他の分子を戻す。この溶解熱は一般に小さいので無視する。単位空間を作り出すエネルギーのルートがHildebrandのSP値になる。
Hansenの溶解度パラメータ(HSP) 1967年 SP値を分散項、分極項、水素結合項[δD, δP, δH]の3次元に分割した。
Hildebran SP2 = δD2 + δP2 + δH2 の関係がある。HSPの各成分をベクトルとみなせば、HildebrandのSP値はベクトルの長さになる。

[4. 第3のパラダイム]

1980年、コンピュータの劇的な進歩により、計算機シミュレーションが進んだ時代。
英語のSimulationの語源は、ラテン語のSimile(似ている)である。溶解実験に“似ている”結果を、計算機に出させるためには、分子と分子の間の分子間力を正確に計算できなくてはならない。1990-1991年に山本はCALTECHのGoddard先生のところに留学した。その時にDr. MarioはCelius IIにSP値を計算するルーチンを実装していた。もちろんこれは蒸発潜熱を計算するだけなのでHildebrandのSP値の推算になる。私のことをHansen先生たちに紹介してくれたのはDr.Marioだ。

[5. 第4のパラダイム]

データ駆動型研究 2019年ごろから騒がしくなってきた。山本はハンセン先生のデータを引き継ぎ、コンピュータシミュレーションを用いながら情報化学の手法で次世代HSP2を設計している。
データ駆動型研究:大量のデータを収集・分析し、そこから得られた知見に基づいて研究を進める手法だ。従来の研究は仮説を立てて検証する手法を取る。
猫の例で言えば、猫とは髭があって、鋭い牙と爪を持つ生物であると仮説を立てる。でもトラだってその仮説に当てはまるので仮説は棄却される。条件を厳しくする。小型であるとか。ところがデータ駆動型になると、片っ端からこれは猫、これは猫でないという写真を見せる。どう分類したかはブラックボックスだけど、仮説なしに猫を認識するようになる。画像だとわかりやすいが、化学だと急に難しくなる。新しい薬を開発するのに、この化合物はいい薬。20種類ぐらいある。PubChemにある残り3000万種−20は薬効がわからない。わからない化合物をいくらデータに放り込んでもやはりわからない。
その時に、この薬のHOMO>XXXX, LUMO<YYYYとすることが多かった。
それには理由があって、どんな化合物であっても、(現実には作られていなくても)MO計算だけはできるからだ。PubChemQCにHOMOやLUMOはDB化されている。
当たり前のことだが、3000万種の中には、HOMO>XXXX, LUMO<YYYYに入るのに薬効が無いものはいくらでも見つかるだろう。一つ見つかれば反例があったことになり仮説は棄却される。データ駆動型では間違ったらもっと判断できるようにビッグデータをよこせという。さらに分子同士のドッキング計算して相性を調べたり、計算負荷は上がる一方だ。薬効の指標の一つとして、オクタノール・水分配比率(logKow)がある。
同効違薬のリストを見ると、構造が異なっていても、logKowが近い。
これをさらに推し進め、材料、ポリマー、溶媒、無機物全てをHSPの形に縮退させてデータ駆動してしまう。それが意外といい味を出している。

[6. 図表]

Empedoclesは「愛は物を引き寄せ、憎しみは物を引き離す
アルキメデスの原理
金属合金の相互溶解性

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