接着剤の溶解度パラメータ

2026.5.25

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溶解度パラメータの現在・過去・未来 > 接着剤の溶解度パラメータ

[0. ストーリー]

様々な溶媒を使った溶解性試験の結果がある。その結果を用いれば溶質のHildebrandのSP値、HansenのHSP、次世代のHSP2を検討することができる。接着剤に関しては1967年には1次元SP値で既に行われていた。不勉強なので詳しいことは入手できていない。3次元架橋されたポリマー接着剤は溶解性試験で完全溶解しない。溶媒の種類によって膨潤度が連続的に変わる。1次元SP値は一番大きい膨潤度を与える溶媒のSP値をポリマーのSP値とみなす。完全に溶解してしまう系の1次元SP値は範囲としてしか求まらない。ポリマーの1次元SP値は範囲(表1)として求まっている[*a]。こうした範囲を材料ごとに提案できるようになるために考え始める

[1. データセット作成]

エポキシ接着剤の溶剤膨潤性が検討された[*b]。結果を図1に示す。用いた溶媒の一覧を表2に示す。

  • HildebranのSP値
    溶媒のSP値はデータ集などに記載されている。pirikaでは簡便に次式で計算した値をHildebrandのSP値とする。
    Hildebrand SP値 = tot HSP =√ (dD2+dP2+dH2)
  • Hansen3次元溶解度パラメータ(HSP)
    Smilesの構造式とScore(可能であれば、HCode, 溶媒名、CAS番号)を持てばPirika ProのYMB Pro26を使って簡単に拡張HSPiPデータを作成することができる[*1]。HSPiPのデータフォーマットはXMLフォーマットとなる。Pirika Proではデータはスプレッドシートで扱う。HSPiPではδHDとδHAを/(スラッシュ)で連結する。これはスプレッドシートには適さないので、PirikaProでは2列で扱う。拡張HSPiPデータをコンバータを使いXMLとしてセーブする(図3)。このファイルはHSPiPで読み書きできる(図4)。Pirika Proを持たない場合には、手作業でデータ作成を行う。
  • 次世代HSP2用のデータセット
    スプレッドシートの拡張HSPiPデータをそのまま解析に用いる。普通にコピーするとタブ区切りのデータとしてコピーされる。PirikaProに搭載されているSphere探索パネルから溶解球を探索する。PirikaProを使うと次世代HSP2用の水素結合項分割リストが得られる[*2]。拡張HSPiPデータの水素結合の分割項を適宜入れ替えSphereを探索する。

[2. 定性的解析]

  • HildebranのSP値による解析
    図1からエポキシ系接着剤を良く膨潤させる溶媒は、10,11,12,13であることがわかる。従って接着剤のSP値は10.0-11.5であると言うことができる。10.0-11.5の間に入りながら膨潤しない22,25,26溶媒をどう解釈するか?9,14,23,24の範囲を外れるのに30%以上膨潤するものをどう解釈するか?で昔から研究者を悩ませてきた。
  • Hildebrandによる拡張
    Hildebrand自身、1次元のSP値で溶解性、膨潤性を全て解釈できるとは考えておらず、水素結合を強、中、弱に分けて評価することを行なった。実際にHildebrandがどう水素結合を評価しようとしたのかは不勉強でわからない。図2に示すように横軸にHildebrandの SP値、縦軸にHansenのdHをプロットした。35%以上膨潤する丸印の溶媒は2次元空間中で集まっている(赤い領域)ことが確認される。
  • Hansen3次元溶解度パラメータ(HSP)による解析
    Scoreに良溶媒(1)、貧溶媒(0)を指定して解析を行う。良溶媒と貧溶媒の境界は研究者自身が定める。ここでは膨潤度30%以上のものを良溶媒と定める。ハンセンの溶解球の意味することは次のように説明される。各溶媒はHSPの値を元に3次元座標にプロットされる(図6の赤と青の小さな球が溶媒を示している)。良溶媒をハンセンの溶解球の内側に、貧溶媒は溶解球の外側に配置されるような最小半径の溶解球を探索する(図6の大きな半透明の緑、水色の球)。新たな溶媒を評価するときに、溶媒のHSP座標が溶解球の内側にくるなら、研究者が良溶媒(ここでは30%以上)と呼ぶ程度に溶解することが期待できる。溶解球の中心を溶質のHSPと定める。HSPiPを使い溶解球を探索すると図3のようになる。Genetic Algorthmを用いると溶解球は[dD, dP, dH] 半径=[18.8, 8.4, 12.7] R=6.3になる。Swellingが30%以上なのに溶解球の外に配置される溶媒が4つある。溶解球が2つあると仮定して探索すると、[17.2, 6.3, 15.7] r=3.7、[18.1, 7.0, 4.3] r=4.6と求まる。Trichloro Ethane のみSwellingが30%以上なのに溶解球の外に配置されてしまう。図6左にSphere、右にDouble Sphereを示す。マウスでドラッグし、溶媒をクリックすると溶媒名が表示される。良溶媒なのに溶解球から外れる溶媒を確認することができる。Double Sphereを探索すると大きく離れた位置に小さな溶解球が2つ探索されたことがわかる。緑色の溶解球の周辺には低分子のアルコールが溶解球の外側に、セルソルブなどの大きめの溶媒が溶解球の内側に配置されていることがわかる。水色の溶解球の周辺にはエステル系、ケトン系の溶媒が配置されている。HSPiPのDouble Sphere法はdHの分割が有効になっていない。
  • 次世代HSP2を用いた解析
    GA法、Double Sphere法はHSPiPに搭載されているので、次世代HSP2法としては水素結合の分割を変えた場合の効果を検証する。拡張HSPiPデータの水素結合分割項[dHD, dHB]の列を、山本の定義した[yHAcid, yHBase]、Electron Donor/Acceptor [yED, yEA]、Abraham Acid/Baseに置き換え、Pirika Proで溶解球探索を行う(図5)。ここでの計算オプションはDouble Sphere法でdHの分割を行い距離の式はEuclidタイプを使う指定で計算を行った。

[3. エポキシ接着剤の解釈]

ここでのエポキシ系接着剤は、EPIKOTE828とVERSAMID125から作成されている。(HSPiPのExamplesに収録されているpolymer88c.hsdxは同じエポキシ樹脂を88溶媒で溶解性を検討したデータセットであるので試してみると良い)
エポキシ系の接着剤はビスフェノールAタイプのエポキシとアミンを反応させて硬化させる。エポキシとアミンの反応に伴い水酸基が一つ生成する。ビスフェノールAを疎水場でアミンと水酸基の部分は親水場になる。いわゆるミクロ層分離構造をとる。
エポキシ硬化物を様々な溶媒に浸漬した場合にビスフェノールA部分とアミン-水酸基の部分で相互作用の強い溶媒は異なると考えられる。図8に示すようにDouble Sphere法で求まった2つのハンセン溶解球はこのビスフェノールA部分とアミン-水酸基の部分を表していると解釈するのが合理的である。Wrong In/Outの総数は1つであった。これをSingle Sphereで表現しようとすると多くの例外が現れてしまう。
HSPiPに搭載のDouble Sphere法はdHの分割が有効になっていない。PirikaProを使って検討した。表3にdHを分割し、Double Sphere法で探索したハンセンの溶解球の中心と球の半径を示す。HSPiPに搭載の[dHD, dHB]を使った場合にはWrong In/Outの総数は3つであった。山本の定義した[yHAcid, yHBase]を使った場合にはWrong In/Outの総数は1つになった。さらに [yED, yEA]、[Abraham Acid, Base]に分割した場合にはWrong In/Outは2つであった。dHを分割せずDouble Sphereを使えば
Wrong In/Outは1つであったので顕著な分割効果は無い。HSP理論は図8に示すように平均場理論になる。エステル(中性)、アミン(塩基性)、カルボン酸(酸性)、アルコール(両性)であっても分子のサイズ次第でHSPがほぼ同じになってしまう。特に酸、塩基でdH値がほぼ同じになってしまうと平均場理論では溶解性、分散性で差が出ない事になる。Double Sphereが[17.2, 6.3, 15.7] r=3.7、[18.1, 7.0, 4.3] r=4.6の時、dH項15.7, 4.3がどういう極性なのかはPirikaProを使わなくては解析できない。

  • δHD,δHA:HSPiPに搭載されている酸塩基分割法
    ブレンステッドの酸塩基であるAbrahamのAcid/Baseを使ってdH項を分割した。プロトンのドナーが酸の定義になるので、ほとんどの化合物は酸にはならない。
    [δHD, δHA]=[2.0, 6.8]と[10.1, 13.2]となる。どちらのSphereもδHAの方が大きくなる。エポキシはビスフェノールA部分とアミン-水酸基の部分の相分離構造がDouble Sphere解析の方が適していると記した。そのどちらもδHDよりδHAの方が大きい塩基性のドメインと解析される。
  • yHAcid26, yHBase26:山本が新たに定義したdH分割法
    ほとんどの化合物は酸にはならない事から生じる問題をルイスの酸塩基を導入して解決した。[yHAcid26、yHBase26]=[5.7, 11.7]と[4.03, 2.49]となる。ビスフェノールA部分は4.03と少し酸性、アミン-水酸基の部分は11.7と大きく塩基性になる。ミクロ相分離構造の2つのドメインは片方が酸性、片方が塩基性になる。
  • yED26, yEA26 : Electron Donor/Acceptor ルイスの酸塩基分割
    この分割でも、2つのドメインは片方がルイス酸性、片方がルイス塩基性になる。
  • Abra. yAcid26, Abra. yBase26: Abraham Acid/Base、ブレンステッドの酸塩基分割
    この分割でも、2つのドメインは片方がブレンステッド酸性、片方がブレンステッド塩基性になる。

HSPiPに搭載のδHD,δHAと、それ以外の分割で解釈が別れた。芳香族の水素は弱い水素結合性を持ち、芳香族のπ電子と相互作用する。それを考慮するとビスフェノールA部分は弱いルイス酸性と考えて矛盾はない。

[4. Pirika Proの洞察]

エポキシの溶媒膨潤性を考えると、ミクロ相分離構造の2つのドメインは片方が酸性、片方が塩基性と解釈される。本来我々が知りたいのは、溶媒膨潤性ではなく接着力だ。ミクロ相分離構造の酸塩基ドメインを持つ接着剤の特性を考える上で、PirikaProから導出された溶解球は様々な洞察を与えてくれる。

[5. 図表]

表1 高分子の SP値
図1 エポキシ接着剤の溶剤膨潤性
NoSolventSwelling %Hildebrand SPdDdPdH
1Hexane3.4 7.2 14.900
2c-Hexane6.0 8.2 16.800.2
3Propylene Carbonate5.3 13.2 20184.1
4Triethanol amine4.1 15.5 17.37.621
5methanol22.3 14.6 14.712.322.3
6Ethanol23.2 12.8 15.88.819.4
7Dimethyl Sulfoxide23.7 12.2 18.416.410.2
8Dimethyl formamide29.7 12.3 17.413.711.3
9methyl cellosolve32.6 11.7 168.215
10methyl pyrolidone44.6 11.5 1812.37.2
11cellosolve45.6 10.7 15.97.214
12butyl cellosolve46.1 10.3 165.112.3
13methylene chloride43.9 10.0 177.37.1
14trichloro Ethane37.4 8.3 16.84.32
15Toluene27.1 8.9 181.42
16Xylene24.7 8.9 17.813.1
17Buthyl acetate20.9 8.5 15.83.76.3
18Ethyl acetate20.4 9.1 15.85.37.2
19MEK20.5 9.4 1695.1
20acetone20.4 9.9 15.510.47
212-propanol20.5 11.6 15.86.116.4
222-butanol25.8 10.9 15.85.714.5
231-butanol30.8 11.6 165.715.8
24tetrahydrofuran31.2 9.6 16.85.78
25Anon40.1 10.0 17.88.45.1
26Dioxane40.1 10.0 17.51.89
表2 溶剤による膨潤率とHildebrandのSP値、ハンセンのHSP
図2 Hildebrand SP値の拡張
図3スプレッドシートの拡張HSPiPデータをHSPiPで読み込めるようにXMLに変換

Smilesの構造式とScoreから、YMBを使い拡張HSPiPフォーマットを作成する。
スプレッドシートのデータをコピーしPirika Proのデータ変換タブにペーストする。変換ボタンをクリックし結果をテキストエディターにペーストし、ファイル名.hsdxとセーブする。このファイルはHSPiPから読み込むことができる。

図4 ファイルをHSPiPで開き、ハンセンの溶解球を計算する。
図5 PirikaProのSphere探索

図6 左:GA法Sphere探索結果、右:Double Sphere法探索結果
マウスをキャンバス中でドラッグすると座標を回転することができる。シフトキーを押しながら左右に動かすと拡大・縮小される。optionキーを押しながらマウスを動かすとパンされる。Score 1(良溶媒: 青色)、Score 0(貧溶媒:赤色)をクリックすると溶媒名が表示される。

図7 Double Sphere法で求まった2つのハンセン溶解球とエポキシの硬化体の構造由来
δHDδHA
WrongIn/OutdDdPδHDδHA半径
318.076.2126.774.7
17.86.7310.0613.235.75
yHAcid26yHBase26
WrongIn/OutdDdPyHAcid26yHBase26半径
117.325.125.6611.725.21
18.016.574.032.494.79
yED26yEA26
WrongIn/OutdDdPyED26yEA26半径
216.654.470.789.357.19
17.934.2114.647.887.32
Abra. yAcid26Abra. yBase26
WrongIn/OutdDdPAbra. yAcid26Abra. yBase26半径
216.325.915.4519.966.88
16.757.117.113.946.78
表3 dHを分割し、Double Sphere法で探索したハンセンの溶解球
図8 平均場理論

[6. pirika内のリンク]

*1: 6.1 Smilesの構造式から拡張HSPiPフォーマットを作成する。
*2: 6.5 次世代HSP2の水素結合項を使う

[7. 参考文献]

*a: 色材、45(1972) 45_18 プラスチックの表面性質と塗装
*b: 沖津 俊直、日本接着学会誌、vol.29, No.5, 204-211(1993)


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