2026.5.25
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溶解度パラメータの現在・過去・未来 > においは3次元HSPでは足りない。
[0. ストーリー]
匂いに関してはいろいろ書いてきた[*1-4]。匂い化合物が嗅覚細胞に溶け込んで刺激を与える。その溶け込み方を合理的に数値化するには現状ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)が適している。将来はMDとか使い、嗅覚細胞との結合定数もAIが計算してくれるかもしれない。ところが酸っぱい匂い、アミンの「腐った魚」ぽい匂いもあるので3次元のHSPでは足りない。HSPiPには水素結合項(dH)をプロトン・ドナー(δHD)、プロトン・アクセプター(δHA)に分割する私(pirika.com社CEO山本博志)が作成したルーチンが搭載されている。これはいわゆるブレンステッドの酸塩基だ。次世代のHSP2では水素結合の分割は更に複雑になっている。何故この複雑な分割が必要なのか香りの分割で示そう。
[1. データ]
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)と悪臭[*1]で扱った悪臭化合物(表1)を使う。この化合物を構造によって、硫黄(G1)、アルデヒド(G2)、芳香族(G3)、カルボン酸(G4)、アミン(G5)、判定用のその他(G6)に分類した。
[2. 香り物質の溶解度パラメータ ]
- 1次元のSP値(Hildebrand SP = tot HSP)
図1に化合物のグループと1次元のSP値を示す。硫黄系(G1)と芳香族系(G3)は比較的メンバー間の差異が少ない。アルデヒド(G2)、カルボン酸(G4)はメンバー間で1次元SP値が大きく異なる。特徴的なのが、アセトアルデヒド、プロピオン酸のような小さな化合物のSP値が大きくなることだ。蒸発潜熱を高くする官能基の効果が薄まった事によるものだ。G5のアミン化合物はトリメチルアミンのSP値は小さいが他のアミンのSP値は高い。これは分子中に2つのアミノ基を持ち、3次元的な水素結合をするためと考えられる。判定用の化合物のSP値だけを見てどのグループに属するかは明確ではない。 - 3次元のHSP値
図2に3次元のHSPを示す。3次元のHSPではHSPをベクトルとみなし3次元空間に香り物質を表示する。判定用の化合物は赤色で小さな球で表示されている。アルデヒド(G2:水色)、芳香族(G3:緑)、カルボン酸(G4:黄色)は比較的似た位置にプロットされている。硫黄(G1:青)、アミン(G5:オレンジ)はばらついている。カルボン酸のそばにある小さな赤い球をクリックしてみる。イソブタノールであることがわかる。つまり、カルボン酸とアルコールは3次元のHSP値では区別できない。カルボン酸化合物は酸性化合物でアルコールは両性化合物でどちらも水素結合項が大きい。アミン(G5:オレンジ)のそばにある赤い球は4-methyl-3-hexenoic acid(雑巾の臭さ)であり本来、カルボン酸(G4:黄色)に属するはずである。G4とG5はグループとして分離しておらず、大きな範囲を構成している。アルデヒド(G2:水色)の延長上にある赤い丸はアルデヒドであるものが多いが、アミン(G5:オレンジ)にも近くなっている。硫黄、アルコール、エステル、ケトンは傾向がとれない。 - 4次元のHSP値
HSPiPには水素結合項(dH)をプロトン・ドナー(δHD)、プロトン・アクセプター(δHA)に分割する私が作成したルーチンが搭載されている。作成者の自分が言うのも何だが、この分割は実はほとんど役に立たない。プロトン・ドナー性の化合物はカルボン酸、アルコール、アミン以外にはほとんどない。しかもこれらの化合物は酸性、塩基性の両性化合物に分類される。そこでほとんどの化合物はプロトン・アクセプター性になってしまう。図3に示すようにカルボン酸(G4:黄色)、アミン(G5:オレンジ)、アルコール以外はδHDがゼロになるのでほとんどの化合物は左の壁に張り付いてしまう。ラジオボタンをクリックして3軸を選択しても、3D-HSPよりも分離性能はかえって悪くなっていることがわかる。 - 次世代のHSP2を用いた水素結合項分割の拡張
HSPiPの水素結合分割の問題点を解決するため、山本法の水素結合分割式を開発した[*5]。図4に示すように、化合物のSmiles構造式をPirikaProで処理すれば各種の分割項が得られる。水素結合項を山本法によって分割したyHacid/yHBaseを用いると図5の左に示すように壁に張り付いていた化合物が浮き上がってくる。化合物ごとの分類も3D-HSP, 4D-HSPよりも合理的になっている。判定用の化合物の位置も合理的だ。そこでHSPiPに搭載しているδHD、δHAを使う理由はもう無い。
さらに、ルイスの酸塩基に分割した。ルイスの酸塩基はドナー/アクセプターと呼ぶことが多いがプロトンドナー/アクセプターと混乱することが多い。そこでpirikaではElectron Donor(ED: ルイスの塩基)、Electron Acceptor(EA: ルイスの酸)を使う。もとはGutmannのDN/ANをベースにしたが、HSP理論に適合するように調整してある。
図5の右に山本のyED/yANの結果を示す。さらに分離性能も判別性能も高くなったなった。yHacid/yHBaseではトータルの蒸発エネルギーがHSP理論と矛盾しないように設定してある。
tot HSP2 = dD2 + dP2 + yHacid2 + yHbase2
しかしyED/yANの場合にはこの制限はない。ある意味HSP理論とは矛盾する。 - 次世代のHSP2を用いた水素結合項分割の拡張(II)
HSP理論の基本は、分子の蒸発潜熱と分子体積でtotHSPを計算する。
Hildebrand SP = tot HSP = √(Hv-RT)/MVol
そこで同族体(例えばアルデヒド)であっても分子が大きくなるとtot HSPは(各dD, dP,dHも)変わる。3次元座標の位置も変わってくる。しかし物性によっては官能基の種類だけにしか依存しないこともある。無機物の分散に酸性、塩基性は影響するだろうか?[*6]で説明した。図6に示すように、pKa、分子中の最大の負電荷、AbrahamのAcidは分子の大きさには依存しない物性値が例えば分散に寄与する事がありうる。そこで次世代のHSP2には、分子を調べて分子中の官能基で一番大きな値(複数官能基を持つ場合にはMixingルールを作成)を返す機能がある。yHacidL/yHBaseL、yEDL/yANLのL付きの水素結合分割を用いた場合、香り物質の分割にどういう効果があるか調べる。図7に示すようにアミンを2つ持つものは1つのものと位置が異なる(mixing ruleによる)。他のものは、特にyEDL/yEALは同族のものはほぼ同じ位置になる。香りについてはyEDL/yEALで見るのが合理的である。同族体の中で微妙な位置の違いが香りの微妙な記述にどう影響を与えているかを考察することは意味がある。
[3. 図表]

香物質ごとに3つの数字を割り振ることができる。

例えば、お酢は赤い三角が大きくて、酸っぱく感じるとか、都市ガスの硫黄の匂いは緑が大きいとか、分子特有のHSPを得ることができる。3つの大きさを嗅上皮にあるセンサーで測ってその信号を脳に送っていると考える。
Jspreadsheet CE
表1

図2 左:3D-HSP表示画像 右:Sphere viewerデモ
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
硫黄(G1:青)、アルデヒド(G2:水色)、芳香族(G3:緑)、カルボン酸(G4:黄色)、アミン(G5:オレンジ)、判定用のその他(G6:赤)で色分けした。球をクリックすると化合物名が表示される。
図3 左:4D-HSP表示画像 右:Sphere viewerデモ
Drag=回転, Drag+Shift キー=拡大、縮小, Drag+コマンドキーかAltキー=移動。
カルボン酸(G4:黄色)、アミン(G5:オレンジ)、アルコール以外はδHDがゼロになるのでほとんどの化合物は左の壁に張り付いてしまう。

Pirika ProのYMB26でdH分割を選択する。現在のHSPiPに搭載されているブレンステッドの酸塩基(AbrahamのAcid/Base)をベースにしたδHD, δHA以外の分割値を出力する。ルイスの酸塩基、分子中の最大のAcid/Baseだけを見る。必要に応じて拡張HSPiPデータの列を入れ替えて用いる。



[4. pirika内のリンク]
*1: ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と悪臭
*2: 香りとハンセン溶解度パラメータ(HSP)
*3: コロナ探知犬、匂いで感染者発見。e-Noseの教育方法
*4: No.4 ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)を使った、AI-SOMリエの開発
*5: 水素結合項(dH)の分割
*6: 無機物の分散に酸性、塩基性は影響するだろうか?
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