量子ドットの表面を理解する

2026.6.16

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溶解度パラメータの現在・過去・未来 > 量子ドットを次世代のHSP2で

[Pirika.com内量子ドット関連記事]

量子ドットのようなナノ粒子のハンセン溶解度パラメータを得る方法
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新しいHSP距離の考え方 量子ドットを例に

[0. ストーリー]

無機物の分散をHSPで考えることは一般的になってきた[*1]。実に不思議なことにクラッシックな3D-HSPでもそこそこ解析できてしまう。無機物の表面はすごく複雑だ。なんで単純な3D-HSPで解析できてしまうのか? 次世代のHSP2を使うとどんな洞察が得られるか? 解析にはHSPiPのサンプルデータを使った。CdTeの表面をホスホネートで修飾したものだ。表面が完全に覆われているのか。そうでないのか。分散性試験で結果が変わると考えられる。図1にあるようにCdはルイスの塩基、Teはルイスの酸に分類される。

[2. 量子ドットの溶解度パラメータ]

  • 量子ドットの1次元溶解度パラメータ
    図2に1次元溶解度パラメータと分散性の関係を示す。各溶媒のtot HSPは3D-HSPから計算した。良分散性(Score=1)の溶媒(22-40)のSP値は15.1から22.8になる。貧分散性(Score=0)の溶媒21種のうちSP値が15.1から22.8の間に入るものは7つある。つまり誤認識は7/21となる。ざっくり言えばSP値が大きいものは貧分散媒、SP値が小さいものは良分散媒と言えなくもない。しかし、1次元のSP値では無理があるといえる。
  • クラッシック3次元HSP
    図3に3D-HSPによる量子ドットの分散性評価結果を示す。Single Sphere(SS)法を使ってもDouble Sphere(DS)法を使ってもWrong In/Out(誤認識数)は2となった。o-chlorophenolが良分散媒でありながら溶解球の外側に来る。ethyl acetateは貧分散媒であるが溶解球の内側に来る。溶解球の中心は、SS法で[16.69, 1.85, 5.55] R=6.57、DS法で[16.95, 1.81, 6.06] R1=6.46と[13.75, 2.82, 2.34] R2=7.02になった。DS法の最初の溶解球はSS法とほぼ同じになる。DS法で計算する意味はほとんどない。SS法の溶解球はほぼoleic acidと同じHSPになる。oleic acidのtot HSPは17.7なので1次元のSP値解析とも矛盾しない。実にクラッシック3D-HSPの性能は高い。
  • クラッシック4次元HSP
    HSPiPに搭載されている水素結合項の分割値(δHD,δHA)を使って解析を行なった。図4に結果を示す。3D-SS法では[16.69, 1.85, 5.55] であったものが4D-SS法では[16.46, 3.03, 1.59, 2.67] となる。δH=5.55から(δHD,δHA)=(1.59, 2.67)となる。4次元HSPを3次元で表示する場合には、どの軸を選ぶのかが大事になる。ある軸セットの時は溶解球の内側に入っているように見えても、残りの1軸を加えると溶解球の外側に来ることもありうる。ここでは[δD, δHD, δHA]の3軸で評価する。4DのSS法ではWrong In/Outは3と3D-HSPより悪くなった。4DのDS法(HSPiPでは使えない)ではWrong In/Outは0であるので一見すると4D-HSPが有効であるようにも思える。しかし、Sphere Viewerで回転させ確認すると、多くの溶媒がδHDがゼロになっていることがわかる。HSPiPの分割法ではプロトン・ドナー性をもつアルコール、アミン、カルボン酸以外はプロトン・アクセプター性になる。そこで多くの溶媒が左の壁に張り付く。ほとんどの場合、クラッシック4次元HSPはクラッシック3次元HSPより結果が悪くなる。DS法で改善したのは次の理由による。もともと量子ドットのHSPがどちらかと言うと疎水的でδHD、δHAがゼロに近かったからである。
    ここまでの解析ではCdTeのアルキルホスフェート修飾体の表面は均一であると言える。
  • 次世代HSP2を用いた4D解析
    クラッシック4次元HSPでは、ほとんどの溶媒はプロトン・アクセプター性(δHA)のみになる。HSP理論では「HSPが既知の溶媒で溶解性(分散性)を評価し良溶媒が固まって存在する領域にハンセンの溶解球がある」と判断する。アルコールやカルボン酸などのプロトン・ドナー性(δHD)溶媒に分散しない場合には、良溶媒はδHD=0になる。そこで溶解球の中心=無機物のHSPもδHD=0となる。これは挟み撃ち法の限界である。PirikaPro[*2]では水素結合の分割に複数の取り方ができる[*3]。ここではHSPiPに搭載されている(δHD, δHA)の欠点を補いバランスをとって改良した(yHAcid, yHBase)[*4]とルイスの酸塩基をHSP理論で使えるようにスケーリングした(yED,yEA)をつかって解析を行なった。やり方は図6に示すようにYMB Proで水素結合項を各種発生させ拡張HSPiPフォーマットの列を入れ替え図5に示すように溶解球探索を行う。図7に (δHD, δHA)、(yHAcid, yHBase)、(yED, yEA)の違いを示す。(δHD, δHA)では無極性の溶解球と1-octanol、o-chlorophenol(フェノール酸性)をメンバーとする酸性溶解球の組み合わせになる。(yHAcid, yHBase)を使った場合には[15.65, 0.23, 2.47, 4.43] R1=5.6という塩基性溶解球(2.47<4.43)と[17.43, 1.87, 6.09, 0.48] R2=6.6という酸性溶解球(6.09>0.48)が求まる。水素結合項の極性は3D-SS法[16.69, 1.85, 5.55] のδH=5.55にほぼ等しい。2つの溶解球に含まれるメンバーを見てもバランスの取れている事がわかる。(yED, yEA)ではo-chlorophenolだけがWrong Outになってしまった。[17.2, 3.02, 1.52, 5.05] R1=6.92というルイス酸性溶解球(1.52<5.05)と[14.55, 1.64, 10.03, 8.03] R2=5.71というルイス塩基性溶解球(10.03>8.03)が求まる。量子ドットの表面には明確なルイス酸表面とルイス塩基性表面があることを示している。

[3. 考察]

クラッシックの3D-HSPはとても性能が高い。1次元のSP値=tot HSPは溶媒の蒸発潜熱から得られる。蒸発潜熱には全ての分子間力が含まれる。HSPでは定義されていないルイスの酸塩基相互作用や配位結合、π-π相互作用が全て含まれる。そしてδDは屈折率からδPはダイポールモーメントと誘電率から求める事ができる。そして水素結合項δHには水素結合と全ての他のエネルギーが含まれる。
δH2 = tot HSP2 – δD2 – δP2
そこで水素結合などしないアセトンにもδHが割り振られている。
δHにルイスの酸塩基相互作用がすでに組み込まれているので3D-HSPは性能が高い。
アセトンはプロトンは放出できないのでδHDはゼロになる。
δH2 = δHD2 + δHA2
と定義されているので、カルボン酸、アルコール、アミン以外はδHD=0となり、δHA=δHとなる。これではδHの持つその他エネルギー全ての特質が失われる。
yHAcid, yHBaseは図8[b]に示すようにyHAcid=0になるものはほとんどない。イメージ的には図8[a]のクラッシックの分割をバランスよく回転させたような値になる。バランス良くと言うのは、[c][d]に示すようにおおまかにはδHDとyHAcid、δHAとyHBaseが高い相関を保ちつつ、δHD=0になるような領域の化合物に有意なyHAcidを割り振る事である。
δH2 = yHAcid2 + yHBase2
であるのでHSPの理論からは外れずにクラッシック4Dの欠点を解消し、クラッシックの3D-HSPとも整合性がとれる。
yED, yEAはGutmannのDN,ANをベースにしている。DNは中和熱、ANはNMRのケミカルシフトなので比べることも、HSP理論に組み込む事ができない。そこで山本はバランスをとり、山本法のyED, yEAをSmilesの構造式から算出する式を開発しYMB Proに搭載した。図9の[a][b]に示すように文献値のGutmannのDN, ANの約半分がyED. yEAになる。バランスを取ったと言う意味は、このyED, yEAは図9の[c][d]に示すようにyHBase、yHAcidと高い相関を持つようにバランスされている。この調整によりHSP理論の中でyED, yEAをそのまま使う事ができる。
クラッシックの3D-HSPを信じて、量子ドットの表面はoleic acid程度の均質表面と解釈することも可能だ。次世代のHSP2でルイス塩基とルイス酸の表面が混在すると解釈する事もできる。
pirika.comでは実験はできない。ある解釈をした後どのような検証実験を行うかは実験系の研究者に任せるしかない。その時にPirika Proを持っていなければ次世代の検討はできないので3D-HSPで解釈するしかない。

[4. 図表]

図1 ルイスの酸塩基
図2 1次元SP値と分散性
図3 3D-HSPによる量子ドットの分散性評価
図4 4D-HSPによる量子ドットの分散性評価
図5 ハンセン溶解球探索法
図6 PirikaPro 水素結合項分割の利用法
図7 (δHD, δHA)、(yHAcid, yHBase)、(yED, yEA)の違い
図8 クラッシックなδH分割と山本法による分割
図9 yED, yEAとGutmann DN[a],AN[b]およびyHAcid[c], yHBase[d]の関係

[X. Pirika.com中のリンク]

*1: 無機物の分散に酸性、塩基性は影響するだろうか?
*2: Pirika Pro
*3: 水素結合項(dH)の分割
*4: HSP、水素結合項の新しい分割法yHAcid/Base


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